「営業の成約達人」を生み出す仕組みの作り方

代表 乾切抜き 仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第500話 『頑張れ』を言うほど営業は動かなくなる。中小企業が知るべきモチベーションの作り方

「もっとやる気を出してくれ」

朝礼で語った「頑張ろう」の一言を、午後には誰も覚えていない

成果報酬の額を上げても、半年後には元の数字に戻っている

部下の顔色を見ながら、今日も言葉を選んで励ましている

もし、この4つのうち1つでも当てはまるなら、あなたの会社は危険な状態に近づいています。

それは、社員のモチベーションを「社長が分け与えるもの」だと、知らないうちに思い込んでしまっている状態です。

この思い込みを放置すると、頑張れば頑張るほど、現場のやる気はすり減っていきます。


1.経営者が陥る「やる気の分配」という罠

「最近、若手のやる気が感じられないんです。どうすればモチベーションを上げてやれますか」

ある印刷会社の社長から、こう相談を受けたことがあります。

「社長は、社員のモチベーションを、社長自身が上げてあげるものだとお考えですか」

「当然じゃないですか。給料を上げて、褒めて、たまに飲みに連れて行って。それが経営者の仕事でしょう」

「では、その方法で、若手のやる気は上がりましたか」

「いえ……正直、最初の1週間だけです。すぐに元に戻ってしまって」

これが、典型的な「手段の目的化」です。

給料を上げる、褒める、飲みに連れて行く。

これらはすべて、本来は「モチベーションが自然に保たれる状態をつくる」という目的のための手段にすぎません。

ところが多くの経営者は、この手段そのものを目的化してしまい、「もっと褒めれば」「もっと報酬を上げれば」とエスカレートさせていきます。

「社長、モチベーションというのは、本来、他人から分け与えられるものではなく、本人が自分自身で生み出すものなんです。経営者の仕事は、やる気を配ることではありません。やる気が自然に湧き出てくる仕組みを用意することです」

社長は、少し驚いた顔をしていました。

「仕組み……ですか。気合いの問題だと思っていました」

あなたの会社では、このように、モチベーションを「社長から社員へ手渡すもの」として扱っていないでしょうか。


2.やる気が漏れていく「穴」の連鎖

モチベーションは、一度上げれば保たれるものではありません。

むしろ、何の対策もしなければ、静かに、確実に漏れていきます。

その漏れには、決まった連鎖があります。

①「当たり前」が増えていく

給料がもらえるのも当たり前、会社があるのも当たり前、お客様が注文してくれるのも当たり前。

当たり前が増えるたびに、感謝の気持ちは薄れていきます。感謝が薄れた仕事に、人は熱を込められません。

②「振り返り」が「反省会」に変わる

営業会議を開いても、話題は「先月できなかったこと」ばかり。

分厚い資料を前に、できなかった理由を並べる時間が8割を占め、残りの2割は「来月は頑張ります」という精神論で締めくくられます。

未来について語り合う時間は、どこにもありません。

③「やらされ感」が現場を支配する

反省会が続くと、社員は「また怒られる」「また詰められる」という防衛姿勢になります。

この状態で成果報酬を上げても、一時的な「やらされ感」の燃料にしかならず、長くは続きません。

④「恐怖」でしか人が動かなくなる

報酬でも動かなければ、最後に経営者が手を出すのが、声を荒げること、締切で追い込むことです。

短期的には人は動きますが、これは恐怖による服従であり、モチベーションとは似て非なるものです。

この4つの段階は、ある日突然訪れるわけではありません。

最初は「今月はたまたま忙しかったから」という小さな言い訳から始まり、それが毎月の口癖になり、半年後には誰も未来の話をしなくなっている。

そして1年後には、社長がどれだけ声をかけても、現場には「どうせ変わらない」という空気だけが残ります。

この①から④までの流れを止める手立てがなければ、どれだけ社長が声をかけても、現場のやる気は穴の空いた容器に水を注ぐような状態になります。

注ぎ続ける労力は増える一方で、容器の中身は一向に増えていきません。

3.【実録事例】印刷会社が経験した「他人任せフェーズ」と「自家発電フェーズ」

冒頭で紹介した印刷会社(B社)は、地域の企業向けに販促物やパッケージ印刷を手がけてきた会社です。

他人任せフェーズ

B社の営業会議は、月初に開かれる「数字の確認会」でした。

前月の受注件数、失注した案件の理由、未回収の見積もり。

社長が一件ずつ読み上げ、担当者がうなだれて答える。

そんな空気が何年も続いていました。

「今月は厳しかったな。来月、頼むぞ」

社長の言葉に、営業担当者たちは「はい、頑張ります」と答えます。

しかし、具体的に何を変えるのかは、誰も口にしません。

社長は良かれと思って、ボーナスの査定基準を見直したり、表彰制度を作ったりしましたが、効果は長くは続きませんでした。

社員たちは「やる気を出させられている」という感覚から抜け出せず、社長一人が空回りしている状態が続いていたのです。

自家発電フェーズへの転換点

転機は、ある営業担当者の何気ない一言でした。

「社長、僕たちが本当に困っているのは、やる気がないことじゃないんです。何を優先すればいいか分からないことなんです。」

この一言で、社長は逆説的な事実に気づきます。

やる気が出ないのは、本人の気持ちの問題ではなく、「次の一手」が見えていない構造の問題だったのです。

そこから、B社は3つのステップで仕組みを変えました。

ステップ1:振り返りの時間を半分に減らす

会議の前半を「できなかったことの確認」、後半を「来月、何を試すか」の対話に充てるよう、時間配分を逆転させました。

ステップ2:小さな実験を歓迎する文化をつくる

「この提案の出し方を変えてみたら、お客様の反応がどう変わるか試してみよう」という発言を、結果が出る前から評価する仕組みにしました。

ステップ3:感謝を言葉にする時間を設ける

会議の最後に、互いの仕事に対して一言「助かった」「あれは良かった」と伝え合う時間を、わずか3分間だけ設けました。

半年後、B社の営業会議は様変わりしました。

社長が発言する前に、担当者同士で「来月はこうしてみよう」という声が上がるようになったのです。

「正直、最初は3分間の感謝の時間なんて、意味があるのかと思っていました。でも、今は社員の方から『次はこうしたい』と提案してくる。私が何かを言わなくても、現場が自分で動き出すようになったんです」

これが、B社の社長が語った成果の証言です。


4.逆説的な真実:モチベーションは「上げる」ものではなく「漏れを防ぐ」もの

ここで、多くの経営者が誤解している点を整理します。

モチベーションを高めようとする経営者は、たいてい「電池に充電する」発想で社員に接します。

褒める、報酬を出す、励ます。

これらはすべて、電池に電気を流し込む行為です。

しかし、電池はどれだけ外部から充電しても、使うたびに減っていきます。

漏れの原因、つまり「当たり前」が増えて感謝が薄れていく構造そのものを放置したまま充電だけを続けても、いつまでも満タンには近づきません。

本当に必要なのは、電池そのものを交換することではなく、「自分で発電できる仕組み」、つまり充電器の役割を組織の中に組み込むことです。

振り返りの時間配分、小さな実験を歓迎する空気、感謝を言葉にする習慣。

これらはすべて、社員が自分自身でやる気を生み出せるようにするための「充電の仕組み」です。

たとえば、スマートフォンを毎晩充電するのと同じように、組織にも定期的に「発電量」を確認する仕組みが必要です。

充電器のない電池は、いつかは空になります。

同じように、感謝も振り返りも、一度きりの取り組みでは長続きしません。

毎月、毎週、決まったタイミングで繰り返すことで、初めて「自家発電」の習慣として定着していきます。

社長が電池を充電し続ける経営から、社員自身が発電できる経営へ。

この転換こそが、モチベーションマネジメントの本質です。


5.処方箋:今日からできること

今日から始められることを、1つだけお伝えします。

それは、次の定例会議の最後に、3分間だけ「感謝を言葉にする時間」を設けることです。

やり方は単純です。

会議の終わりに、一人ひとりが「今月、誰かのこの行動に助けられた」という一言を、他の誰かに向けて伝える。それだけです。

このわずか3分間が、「当たり前」を「有難い」に変える小さな仕掛けになります。

最初は照れくさく感じるかもしれませんが、続けるうちに、会議の空気そのものが変わっていくはずです。

あなたの会社では、モチベーションを「上げる」ための施策と、モチベーションが「漏れない」ための仕組み、どちらに時間を使っているでしょうか。

まとめ

社員のモチベーションは、社長が分け与えるものではありません。

社員自身が、自分の中から生み出すものです。

経営者にできることは、その発電が自然に起こる環境を整えることだけです。

やる気に頼る経営、まだ続けますか。

もし、あなたの会社にも「気合いと根性で何とかしている営業会議」があるなら、その仕組みを見直す絶好の機会です。

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