仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第509話 社長の頭の中にある強みが、なぜ営業の口から出てこないのか

社長が同行した商談は、試作の相談まで進みます。
けれども営業だけで訪問した案件は、「資料を置いていってください」で終わります。
同じ会社の、同じ製品の話をしているはずです。
商談から戻った営業に「今日はうちの強みをどう説明した?」と聞くと、返ってくるのは決まってこの一言です。
「品質がいいところを説明しました」
社長であるあなたは、その一言の裏側に何があるかを知っています。
どの得意先で、どんな問題が起きて、自社がどう動いて、先方の担当者が何と言ってくれたのか。
いくつもの場面が束になって、あなたの頭の中には入っています。
ところがその束は、社員に渡る瞬間に「品質がいい」という五文字まで縮んでいます。
社長の頭の中にある強みは、社員に渡る瞬間に圧縮されているのです。
経営者が陥る「もう何度も話した」という罠
自社の価値が営業の口から出てこないとき、多くの経営者は「伝え方が足りなかったのだろう」と考えます。
そして朝礼で話し、営業会議で話し、資料にまとめて配ります。
半年経っても、営業の説明は変わりません。
ここで「うちの社員は聞いていない」と結論を出してしまうと、この問題は永遠に解けません。
社員はきちんと聞いています。
聞いた上で、自分なりに要点をまとめて持ち帰っているのです。
問題は、その「要点にまとめる」という作業そのものにあります。
伝えた回数と、伝わった量は比例しません。
圧縮されたファイルを思い浮かべてください。
中身を作った本人は、ファイル名を見ただけで何が入っているか分かります。
けれども受け取った側は、開く鍵を持っていません。
「品質がいい」という言葉も同じです。
社長が口にすれば、頭の中の具体的な場面がすぐに展開されます。
社員が口にしても、そこには何も入っていません。
同じ言葉なのに、社長には開けて、社員には開けないのです。
強みが値段に化ける「4つの連鎖」
この圧縮は、一度で終わりません。
四つの段階を経て、独自の価値が値段の話にすり替わっていきます。
① 社長は常に具体で語っている
社長が顧客に話すとき、そこには必ず固有名詞が入っています。
去年の夏に原料相場が動いたとき、どの得意先の味をどう守ったか。
先方の充填ラインで粘度が合わなかったとき、何を変えて対応したか。
社長が語っているのは、いつでも具体的な場面です。
② 社員は「要点」として受け取る
社員は真面目です。
社長の話を聞いて、大事なところを抜き出そうとします。
そして「つまり、品質管理をしっかりやっているということだな」と自分の中でまとめます。
このとき、場面も固有名詞も数字も落ちています。
要点としてまとめた瞬間に、中身は捨てられているのです。
③ 圧縮された言葉が、社外に出ていく
その一言は、営業トークに載ります。
提案書の一行目に載ります。
カタログの見出しにも、ホームページの冒頭にも載ります。
「厳選した原料」「徹底した品質管理」「創業以来の製法」
社外に出ていくのは、圧縮された後の言葉だけです。
④ 顧客には、他社と同じに見える
顧客の机の上には、同じような言葉が並んだ資料が三社分あります。
そこから差別化のポイントを読み取ることはできません。
読み取れない以上、顧客は自分が判断できる材料で比べるしかありません。
比較の軸が、値段しか残らないのです。
そして値段で押し切られた案件を取り返すために、社長がまた現場に出ます。
社長が出れば決まります。
決まるので、社長はますます自分で説明するようになります。
社長が出るほど、社員は自分の言葉で語る機会を失っていきます。
【実録事例】展示会で名刺だけが増えていた食品メーカー向けOEM製造業
食品メーカー向けにOEM・PB製品を受託製造している会社の話です。
独演期
その会社は年に二回、業界向けの展示会に出展していました。
社長がブースに立って十五分ほど話した相手は、後日ほぼ確実に工場見学まで来ます。
一方、営業が対応した来場者からは、その後の連絡がほとんどありません。
名刺だけが増えていく状態が、何年も続いていました。
社長は営業会議のたびに自社の価値を語りました。
得意先の生産ラインに合わせて仕様を組み替えてきたこと。
原料の産地が変わっても、最終製品の味をぶらさないための調整をしてきたこと。
営業はうなずいて、メモを取っていました。
それでも商談報告書に並ぶのは「品質面をアピールしました」「弊社の製造体制を説明しました」という文字だけでした。
見積もりが並べられ、一キロあたり数十円の差で失注していました。
その繰り返しでした。
社長は「何度も伝えているのに」と苛立っていました。
転機になったのは、営業を指導したことではありませんでした。
社長が、直近で自分が決めた案件を一件だけ振り返ってみたのです。
先方が身を乗り出したのは、製法を説明した場面ではありませんでした。
充填機が詰まって困っているという雑談に、自分が「うちも同じことがあって」と反応した瞬間でした。
そこで気づきます。
自分が顧客に話していたのは「あなたの工場で何が起きるか」でした。
社員が持ち帰っていたのは「うちが何をしているか」でした。
同じ内容のはずが、社員を一度通ると主語が入れ替わっていたのです。
共有期
翌月から、営業会議のやり方を一つだけ変えました。
決まった案件を一件取り上げ、社長が解説するのをやめました。
代わりに、担当した営業本人に「先方はどこで前のめりになったか」を語らせるようにしました。
最初の二回は、誰も答えられませんでした。
「特にありませんでした」「普通に説明しただけです」で終わります。
三回目に、若手の一人がこう言いました。
「先方の品質管理課長が、原料を切り替えるときの検査工数の話に食いついていました」
社長はそこで解説を加えませんでした。
「それ、次の商談で最初に聞いてみて」とだけ返しました。
社長が正解を配るのをやめたところから、変化が始まりました。
三か月ほどで、商談メモに顧客の発言が残るようになりました。
半年後、カタログの見出しが「厳選した原料」から、得意先が実際に困っていた言葉に書き換わりました。
一年後には、見積もり合戦の前に試作の相談が来るようになりました。
社長が展示会のブースに立つ時間は、以前の半分以下になっています。
社長が話せば伝わるのに、営業が話すと「品質がいい」で終わる——この差を生んでいる仕組みを、無料レポートで解説しています。
まずは会議の使い方から変えられます。
逆説的な真実——語る人が減るほど、語れる人が増える
ここには、経営者の直感に反する事実があります。
自社の価値を最も正確に語れるのは社長です。
だからこそ社長が語り続けます。
けれども社長が語り続ける限り、社員は「社長の話を要点にまとめる」作業しかできません。
要点にまとめる作業は、圧縮そのものです。
営業が語れないのは、社長が語りすぎているからです。
もう一つあります。
自社の強みを言葉にする作業を、会社の中だけで完結させようとすると必ず失敗します。
社内で考えた言葉は、どこまでいっても「うちが何をしているか」の説明にしかならないからです。
顧客が身を乗り出した瞬間だけが、本物の材料です。
強みとは、社長の口から出た言葉ではなく、顧客の口から出た言葉のことです。
処方箋——決まった案件を一件だけ、本人に聞く
今日からできることを一つだけ渡します。
次の営業会議で、直近三か月以内に受注が決まった案件を一件選んでください。
失注案件ではなく、決まった案件です。
そして担当した営業本人に、次の三つを順番に聞いてください。
一つ目、「先方が一番食いついたのは、どの話をしたときでしたか」
二つ目、「そのとき先方は、何と言いましたか」
三つ目、「その言葉は、うちのどこを評価したものだと思いますか」
このとき守っていただきたいことが二つあります。
答えが出るまで、社長が補足しないこと。
そして、出てきた答えを評価しないことです。
「それは違う」と言った瞬間に、次から誰も答えなくなります。
教えるのではなく、聞いてください。
これだけです。
聞くのは一件で構いません。
十分もかかりません。
やってみると、おそらく最初は答えが出てきません。
営業本人が、顧客の言葉を覚えていないからです。
そこで分かります。
覚えていないのは記憶力の問題ではなく、これまで顧客の言葉を持ち帰る必要がなかったからです。
そして次に必ず突き当たります。
一件聞けたとして、それをどこに置き、どうやって次の商談に渡すのか。
一回の会議でできることと、続く形をつくることは別だからです。
まとめ
社長の頭の中にある強みは、束のまま社員に渡すことができません。
渡そうとするたびに圧縮され、「品質がいい」という誰にでも言える一言になって社外に出ていきます。
そして顧客の手元には、他社と区別がつかない資料だけが残ります。
この圧縮を解くのは、社長の説明ではなく、顧客が実際に口にした言葉です。
一件聞くところから始まります。
けれども一件では、営業の口から自社の価値が出てくるところまでは届きません。
聞いた言葉をどこに蓄え、どの場面で使い、誰が次に渡すのか。
その形ができて初めて、社長が同行しない商談でも同じ話ができるようになります。
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