「営業の成約達人」を生み出す仕組みの作り方

代表 乾切抜き 仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第532話 営業5人が5つの個人戦をしている会社に、チーム戦略はあるか

「うちの営業は5人とも腕がいいのに、売上は5人分になっていない」

「5人が5人とも、自分のやり方で売っている」

「同じお客様に、うちの営業が別々の話を持っていっているらしい」

「大きな案件になると、なぜか他社に持っていかれる」

一つでも思い当たるなら、営業一人ひとりの腕を疑う前に、少しだけ立ち止まってください。

5人がそれぞれ自分のやり方で売る状態を「任せている」と読んだまま年を重ねると、お客様の前に立っているのは1つの会社ではなく、5人のばらばらな営業になっていきます。

そして、その違いに気づくのは、たいてい大きな仕事を一つ失ったあとです。

営業5人がそれぞれ別のやり方で売っている会社に、チーム戦略はあると言えるのか?

チーム戦略とは、営業部としてお客様に約束する価値を1つに決め、営業一人ひとりの得意をその価値のどこに充てるかまで決めた、組織の勝ち方のことです。

営業が5人いても、5人がそれぞれの約束で売っている限り、そこにあるのはチーム戦略ではなく、5つの個人戦です。

ある社長と私の会話です。

社長「うちの営業は5人とも腕がいいんです。それぞれ得意なやり方があるので、口は出さずに任せています」

私「その5人が、そろってお客様に約束していることは何でしょうか」

社長「……それは、一人ひとり違うでしょうね。違うから強いんだと思っていました」

ここに落とし穴があります。

一人ひとりの得意を伸ばすことは、本来、会社としてお客様に選ばれるための手段だったはずです。

それがいつの間にか、得意を伸ばすこと自体が目的になり、5人の力が会社として1つの方向に向いているかを、誰も確かめなくなっていきます。

当社が営業の現場を見るときに必ず確かめるのは、営業が一人ひとりばらばらに、目の前の仕事だけを追っていないかという点です。

腕のいい営業は目の前の仕事を上手にこなすため、ばらばらであることが数字の上ではなかなか見えません(よく売る人がいるぶん、むしろ安心してしまいます)。

5人の腕が確かなことと、5人がチームとして勝てることは、まったく別の話です。

営業が個人戦のまま回っている会社では、お客様の前で何が起きているのか?

営業が個人戦のまま回っている会社では、社内からは見えないところで、次の4つが順に進んでいきます。

得意が、それぞれの売り文句になる

値段に強い営業は「どこよりも安く」と言い、企画に強い営業は「一緒に考えます」と言い、納期に強い営業は「明日でも間に合わせます」と言います。

どれも嘘ではなく、本人にとっては一番お客様に響いた言葉です。

同じお客様に、別々の約束が届く

取引先の中で部署が分かれていると、別々の窓口に別々の営業が通うことになります。

総務には価格の話が、販促の担当には企画の話が届き、お客様の社内で「あの印刷会社は結局、何が強いのか」という話がまとまらなくなります。

お客様の頭の中で、会社の姿が5つに割れていくのです。

お客様が、会社ではなく営業個人を選ぶ

やがてお客様は「あの会社」ではなく「あの担当者」に頼むようになります。

一見ありがたいことですが、その営業の得意から外れる相談は、最初から持ち込まれなくなります。

大きな仕事が、まとまって来る他社へ流れる

いくつもの部署にまたがる大きな仕事になると、お客様は、窓口を一つにまとめて提案してくれる会社を選びます。

個人戦の営業部は、一人ひとりが勝てる小さな仕事は取れても、チームでしか取れない仕事を取り逃がしていきます。

一人ひとりの勝ちを足しても、会社の勝ちにはならないということです。

【実録事例】法人向けの印刷業で、5人の個人戦はどうやってチームの勝ち方に変わったのか?

法人向けの印刷業を営むK社長の会社で、当社がご一緒した事例です。

五通りの売り方

この会社の営業は5人で、5人とも売り方がまったく違いました。

ベテランはこまめに顔を出して関係を温め、一人は即日の見積もりと価格で勝負し、一人は販促の企画案を持ち込み、一人は工場の段取りに詳しく納期で応え、若手はWebの問い合わせに素早く返していました。

K社長は「5人とも腕は確かだ」と見ていて、実際に誰も手を抜いてはいませんでした。

それでも、会社全体の売上は何年も横ばいでした。

ある取引先には、総務の窓口に価格の得意な営業が、販促の窓口に企画の得意な営業が、それぞれ別々に通っていました。

その取引先が会社案内とカタログを一度に刷新することになったとき、仕事は、営業と企画と工場の担当が3人そろって提案に来た他社に決まりました。

掛け声のそろった営業部

転機は、失注のあとに訪れました。

K社長は、その取引先に5人が出してきた提案書と見積書を、一枚ずつ見比べていきました。

表紙の最初の1行が、「業界最安値に挑戦します」「企画からご一緒します」「短納期ならお任せください」と5通りに分かれているのを確かめて、K社長は言いました。

「お客様から見たら、5つの別の会社が来ていたのと同じだったんですね。」

5人の違いが問題だったのではなく、チームとして約束する価値が決まっていなかったから、違いがばらばらの約束になっていたのです。

そろえるべきは売り方ではなく、5人が声を合わせる1つの約束のほうでした。

そこからK社長は、当社と次の3つに取り組みました。

ステップ1:チームとして約束する価値を一言にする

K社長は、営業とは何かを改めて考え、「お客様の販促の悩みを、刷る前から一緒に解く仕事」だと言葉にしました。

そのうえで、チームとしてお客様に約束する価値を「刷る前の悩みから、一緒に考えます」という一言にまとめました。

ステップ2:5人の得意を、約束の中の働きとして決める

5人と一緒に、その約束を果たすために誰がどの働きを担うかを話し合いました。

悩みを聞き出す働き、悩みを企画の形にする働き、納期と品質で約束を支える働きと、5人の得意はそのまま、約束の中の違う働きになりました。

ステップ3:大きな案件には2人以上で臨み、働きを振り返る

部署をまたぐ大きな案件には2人以上で臨み、案件が終わるたびに、臨んだ者どうしで「誰がどの働きを担ったか」を短く振り返るようにしました。

半年後、総務と販促の両方の窓口から、同じ約束の言葉で相談が届く取引先が出てきました。

K社長は、当社にこう話してくださいました。

「5人に同じ売り方をさせようとしていたら、一番いいところを消していました。」

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役割分担は、なぜ5人の売り方をそろえることではないのか?

役割分担を、5人の売り方をそろえることだと考える経営者は少なくありません。

ばらばらが問題なら、同じ売り方に合わせればよいと考えるのは自然なことです。

ただ、綱引きを思い浮かべると、その考えが逆を向いていることが分かります。

力自慢を5人集めても、一人ひとりが自分の間合いで力いっぱい引けば、綱は揺れるだけで前に出ません。

強いチームは、全員を同じ引き方にそろえているわけではありません。

先頭は綱の角度を決め、中ほどの者は前の力を受け継ぎ、アンカーは腰を落として綱を止めるというように、並び順によって働きはそれぞれ違います。

それでも綱が一気に動くのは、引く瞬間が1つの掛け声にそろっているからです。

そろえるのは引き方ではなく、掛け声のほうだということです。

営業に置き換えると、掛け声はチームとしてお客様に約束する価値で、並び順による働きの違いが役割分担です。

掛け声のないまま引き方だけをそろえると、5人の得意は中途半端に削られ、しかも綱はやはり前に出ません。

そして、その掛け声は、営業とは何かという考え方の軸から生まれます。

考え方という土台の上に、チーム戦略と日々の売り方という2本の柱が立って初めて、営業の仕組みやマニュアルは、5人の掛け声を毎日そろえ直す道具として働き始めます。

そう、役割分担は5人を同じにすることではなく、5人の違いに1つの約束の中での働きを持たせることです。

個人戦の営業部で、経営者は失注した1件をどう使えばよいのか?

個人戦の営業部で、経営者に明日一つだけ試していただきたいのは、直近で失注した1件を5人で見ることです。

5人を集めて、「この1件を5人で取りに行くなら、自分は何を担ったか」を一言ずつ言ってもらってください。

責める場ではありませんので、誰の案件だったかは問わず、答えに正解・不正解もつけないことが大事なところです。

やってみると、多くの会社で同じ場面が起きます。

5人中4人までが、「自分なら見積もりを早く出して、値段で勝負した」と答えるのです。

日頃はそれぞれの得意で売っている5人が、チームで取りに行く場面を思い浮かべた途端、同じ値段の話に寄っていきます。

ばらばらに見えていた5人は、いざチームになろうとすると、同じ一つの引き方しか持っていなかったのです。

重なりは一度聞けば見えますが、5人が明日から何を合図に別々の働きへ動き分けるのかは、その場では経営者を含めて誰も言葉にできないはずです。

一言ずつ聞いて見えたこの重なりが、5人の気づきを共有する場づくりの始まりになります。

チーム戦略を決めたあとも、5人の得意を生かし続けるには何が要るのか?

チーム戦略を決めたあとも5人の得意を生かし続けるには、掛け声を一度決めて終わりにせず、案件のたびに確かめ直す形が要ります。

一度決めた約束も、目の前の仕事に追われるうちに、5人それぞれの売り文句へと戻っていくかも知れません。

失注の1件で見えた重なりをほどき、5人の得意を1つの約束の中の働きに結び直していく先で、チーム戦略は少しずつ形になっていきます。

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