仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第503話 なぜ営業の「考え方」は9割の会社で標語止まりなのか。軸に変える中小企業の分岐点
「クレドを唱和させても、営業は何も変わらない」
「立派な経営理念を額に入れて掲げたのに、現場は素通りだ」
「素晴らしい戦略を立てたはずなのに、なぜか目標は未達で終わる」
「考え方を言葉にして伝えているのに、社員の行動が一向に変わらない」
もし、この中の一つでも心当たりがあるとしたら、このまま読み進めてください。
あなたの会社の営業が伸び悩んでいる原因は、戦略の巧拙でも、社員の能力でもないかもしれません。
もっと手前にある、たった一つのことが抜け落ちているのです。
そしてこの一つを放置したまま新しい施策を重ねても、努力は積み上がらず、こぼれ落ちていきます。今日は、その正体をお話しします。
セクション1:経営者が陥る「言葉にすれば伝わる」という罠
先日、空調・給排水設備の工事会社を営む社長から、こんなご相談をいただきました。
「乾さん、うちは営業の考え方をちゃんと言語化して、朝礼で毎日唱和までしているんです
なのに、社員の行動がまったく変わらない。もう言葉が足りないんでしょうか。もっと項目を増やすべきですか」
私はこうお尋ねしました。
「社長、その唱和している考え方は、社員さんにとって『軸』になっていますか。それとも『知っている言葉』で止まっていますか」
社長は少し黙ってから、こう答えられました。
「……知ってはいる、と思います。暗唱もできます。でも、軸になっているかと聞かれると、正直、自信がありません」
ここに、多くの経営者が陥る落とし穴があります。言葉にした瞬間に、伝わったつもりになってしまうのです。
考え方を言語化し、紙に印刷し、毎朝唱和させる。
ここまでやれば、たしかに「やっている感」はあります。
しかし、言語化と唱和は、あくまでスタートラインに立っただけです。
ゴールは「言葉にすること」ではなく「軸になること」なのに、いつのまにか手段が目的にすり替わってしまう。
あなたの会社では、考え方を「掲げること」がゴールになってはいませんか。
セクション2:考え方が標語で終わる「3つのすれ違い」
なぜ、これほど多くの会社で考え方が標語止まりになるのでしょうか。
そこには、決まった3つのすれ違いがあります。
①言語化して、満足してしまう
考え方を言葉にできた瞬間、経営者は大きな達成感を得ます。
無理もありません。
頭の中にあった曖昧なものが、はっきりとした文章になったのですから。
しかし社員から見れば、それはまだ「社長がつくった立派な文章」でしかありません。
壁に貼られた紙を横目に、今日も昨日と同じやり方で現場へ出ていきます。
言葉が生まれたことと、その言葉が人を動かすことの間には、深い川が流れています。
②唱和させて、分かったつもりになる
毎朝の唱和は、たしかに言葉を記憶に刻みます。
けれど、暗唱できることと、その言葉が判断の拠り所になることは、まったくの別物です
「明確さは力なり」とすらすら言える社員が、翌週の営業会議では、誰が・いつ・何のために動くのか曖昧なままの計画を平然と出してくる。
言葉は口をついて出るのに、行動には一片も反映されていない。
唱和の怖さは、この「言えているのに、できていない」状態を、できているつもりに見せてしまうところにあります。
③体験が伴わないまま、項目だけが増えていく
行動が変わらないと、経営者は「言葉が足りないのだ」と考えがちです。
そして考え方の項目を、5つ、10つと増やしていきます。
ところが増やせば増やすほど、一つひとつは薄まり、どれも軸にならないまま数だけが膨らんでいきます。
壁一面が立派な言葉で埋まっているのに、現場は何も変わらない。
この光景は、考え方が体験と結びついていない会社で、判で押したように繰り返されています。
この3つのすれ違いに共通するのは、「知っている」で止まっていて、「軸になる」まで届いていないという一点です。
セクション3:【実録事例】空調設備工事会社が経験した「貼り紙だけの日々/手が動き出した朝」
先ほどの空調・給排水設備の工事会社が、まさにこの状態にありました。
◆貼り紙だけの日々
この会社の事務所の壁には、営業の心得が10項目、きれいに印刷されて貼り出されていました。
朝礼では全員で唱和し、声もよく出ています。
第三者が見れば、意識の高い、理念の浸透した会社に映ったことでしょう。
しかし実態は違いました。営業会議を覗くと、月間計画は相変わらず個々人任せで、誰が・どんな狙いで・どの顧客に動くのかが判然としない。
会議の終盤は、決まって「もっと気合を入れていこう」という精神論で締めくくられる。
壁の10項目は、まるで風景の一部のように、誰の判断にも影響を与えていませんでした。
社長は焦って、心得の項目をさらに増やそうとしていました。
言葉が足りないから伝わらないのだ、と考えていたのです。
◆手が動き出した朝
私がお伝えしたのは、逆のことでした。
「項目を増やすのをやめましょう。10個の言葉のうち、たった1つだけを、本物の軸にすることから始めてください」
この会社が選んだのは、「明確さは力なり」という一つの考え方でした。
そして、次の3つに絞って取り組まれました。
第一に、言葉の意味を、自分たちの現場の言葉で定義し直したこと。
「明確さは力なり」とは、この会社にとって具体的に何を指すのか。
営業リーダーたちが議論し、「計画のすべてに、誰が・いつ・何のためにを書き込むこと」だと自分たちの言葉に翻訳しました。
借り物ではない、腹落ちした定義がここで生まれました。
第二に、その言葉を使わざるを得ない場を、営業会議の中に組み込んだこと。
計画が曖昧なまま提出されたら、社長が「明確さは力なりが抜けているぞ」と一言かける
すると営業リーダーは「そうですね、今日中に直して、明日から動きを変えます」と応じる。
この一往復を、毎週の会議で必ず通す仕組みにしました。
言葉が判断の場に立ち会う、その体験を意図的に繰り返したのです。
第三に、できた事実を、その場で言葉に結びつけて振り返ったこと。
明確な計画で成果が出たとき、「これが明確さは力なり、ですね」と、体験と言葉を毎回ひもづける。
この積み重ねで、言葉はただの標語から、成功の記憶と結びついた「軸」へと変わっていきました。
半年後、社長はこう語ってくださいました。
「以前の営業会議は、目の前の問題の後始末に時間を取られていました。今は、これからどう動くかという将来の話に時間を使えています。営業の発言も前向きになって、自分たちで仮説を立てる力がついてきました」
壁の貼り紙は、ようやく現場の手を動かし始めたのです。
セクション4:逆説的な真実 考え方は「掲げる」ものではなく「かき混ぜる」もの
ここで、考え方の本当の姿についてお話しします。
多くの経営者は、考え方を「額縁に入れて壁に飾るもの」だと思っています。
立派に言語化し、掲げれば、あとは自然に染み込んでいく、と。
しかし、考え方はぬか床に似ています。
ぬか床は、毎日手を入れてかき混ぜるからこそ、発酵が進み、旨みが生まれます。
どれほど上等な容器を用意し、「これは最高のぬか床です」という札を貼っても、手を入れなければ何も起きません。
それどころか、放っておけば、よどんで使いものにならなくなります。
考え方もこれと同じです。
言語化(容器を用意すること)は入り口にすぎません。
毎日、判断の場でその言葉に手を入れ、体験とかき混ぜ続けるからこそ、考え方は発酵し、軸という旨みに変わっていくのです。
壁に貼って眺めているだけの言葉は、かき混ぜられないぬか床と同じ。決して発酵しません。
だからこそ、当社では考え方の重要度を、戦略や戦術よりも高く見ています。
仕事における重要度の配分は、考え方が5、戦略が3、戦術が2。考え方の軸さえ定まっていれば、戦略も戦術も後からいくらでも構築できます。
逆に、どれほど見事な戦略・戦術を描いても、それを貫く考え方の軸がなければ、施策はやり切られないまま次の流行りに乗り換えられ、結局は目標未達で終わっていきます。
そして、もう一つ、経営者が誤解しがちなことがあります。「全員に軸を持たせなければ」と考えてしまうことです。
現実には、その必要はありません。
当社の経験では、組織を動かす立場の人たちの3割が考え方を軸にできれば、風土は動き出します。
従業員が100人規模の会社なら、経営幹部が10人ほどいるでしょう。
そのうちの3人で構いません。
組織が10人規模の会社なら、その中核となる3人です。
大切なのは数の多さではなく、その3割が組織を動かす発言権を持っているかどうか。
ここを外さなければ、会社は変わり始めます。
セクション5:処方箋 今日から始める、たった一つのこと
ここまで読まれて、「では何から手をつければいいのか」と思われたことでしょう。
やることは、一つだけです。
考え方を10個掲げる前に、たった1つを選び、それを体験と結ぶ「場」をつくってください。
新しい言葉を足すのではありません。
むしろ逆で、今ある言葉の中から最も効きそうな1つに絞り込む。
そして、その言葉が判断の場に必ず立ち会うように、会議や日報の中に仕掛けを組み込む。
曖昧な計画が出たらその言葉で問い直し、成果が出たらその言葉でひもづけて振り返る。
この「気づきの場づくり」こそが、標語を軸へと発酵させる唯一の方法です。
言葉を増やすのは、足し算です。しかし軸をつくるのは、1つに絞り込む引き算から始まります。
あなたの会社で、まず1つ選ぶとしたら、どの言葉でしょうか。

まとめ
考え方は、言語化して掲げた時点では、まだ壁の貼り紙にすぎません。
それが軸になるのは、判断の場で毎日かき混ぜられ、体験と発酵したときです。
そして、全員に持たせる必要はなく、組織を動かす3割が軸を持てば、風土は確かに動き出します。
言葉を足すのをやめて、1つを選び、体験と結ぶ場をつくる。
この引き算から、あなたの会社の営業は変わり始めます。
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