仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第489話 「育てようとするから、育たない」中小企業の営業マネージャーが陥る仕組みなき育成の罠
「うちのマネージャー、なんで部下が育てられないんだろう」
「毎月同行して教えているのに、いつまで経っても一人で動けない」
「育成研修に費用をかけたのに、現場が何も変わっていない」
そんな声を、経営者のみなさんから何度も聞いてきました。
でも、少し立ち止まって考えてください。
あなたの会社の営業マネージャーは、本当に「育成」をしていますか?
それとも、知らず知らずのうちに「コントロール」をしようとしていませんか?
「育てようとすればするほど、育たない」
この逆説を理解した会社だけが、仕組みで人が育つ組織へと変わっていけます。
今回は、多くの中小企業が陥っている「育成の落とし穴」と、仕組みで人を育てる現実的な手順についてお伝えします。
■ 経営者が陥る「育成=コントロール」という罠
あるとき、セミナー終了後、こんな相談を受けました。
「乾先生、うちのマネージャーは熱心に部下の指導をしているんですが、なかなか育たないんです。本人もストレスを溜めているようで……何が問題なんでしょうか」
私は少し考えてから、こう聞き返しました。
「そのマネージャーの方、部下に『こうあってほしい』というイメージ、強くお持ちではないですか?」
「確かに、かなり細かく指示を出しているようです」
「それが、問題の本質かもしれません」
育成とコントロールは、似て非なるものです。
「部下を育てよう」と意識した瞬間、多くの凡人管理職は、自分の思い通りに動く部下をつくろうとし始めます。
自分の正解を部下に押し込もうとするのです。
ところが、部下は自分の思い通りには動きません。
動かないからさらに指示を細かくする。
細かくするほど、部下は考えなくなる。
考えなくなった部下を見て、さらにストレスが溜まる。
「なんでこんなに教えているのに動かないんだ」とマネージャーは苛立ちます。
でも、その苛立ちの正体は、育成ではなく、コントロールがうまくいっていないことへの苛立ちなのです。
この悪循環の根っこにあるのが、「育成をコントロールと混同している」という構造的な問題なのです。
コーチングの研修を受けても、1on1を取り入れても、根底にコントロールの発想がある限り、本質は変わりません。
それどころか、高度な手法を使いながらも「自分の思い通りにしようとしている」という矛盾が深まるだけです。
■ 組織を止める「4つの誤作動のループ」
中小企業の営業現場でよく見られる、育成の誤作動を整理してみます。
①「育てなければ」と思う
マネージャーが強い責任感を持ち、部下をどうにかしようと動き始める。
責任感そのものは悪くありません。
問題は、その責任感が次のステップを引き起こすことです。
②コントロールが始まる
「こうしろ、ああしろ」という細かい指示が増え、部下が自分で考える機会が失われていく。
指示が増えるほど、部下は「考える筋肉」を使わなくなります。
③部下の壁を「代わりに越えてしまう」
部下がクロージングで詰まると同行して自分が決めてくる。
部下が顧客対応で困ると自分が出ていく。
部下がぶつかっている壁を、上司が取り払ってしまう。
その瞬間は確かに問題は解決しますが、部下が壁の越え方を学ぶ機会は永遠に失われます。
④部下が「おだてれば上司がやってくれる」と学習する
「部長、さすがですね。やっぱり部長じゃないと決まりませんよ」という言葉を繰り返しながら、部下は自ら成長することをやめていく。
上司はこの言葉を聞いて満足感を覚えますが、実はこのとき、組織はじわじわと壊れています。
この4つのループが回り続ける限り、組織の中には「自分で考えて動ける人材」は育ちません。
あなたの会社の営業マネージャーは、このループの中にいませんか?
■ 【実録事例】住宅設備機器卸が経験した「消耗の時代と転換の一手」
◎消耗の時代
ある住宅設備機器卸の会社での話です。
営業課長のAさんは、かつてトップセールスマンとして活躍した方でした。
数字の作り方を誰よりも知っている。
顧客との信頼関係の築き方も、クロージングのタイミングも、感覚で分かる。
そんな「できる人」がマネージャーになったのです。
「今月の大口案件、俺が一緒に行って決めてきたよ。やっぱり最後は俺が出ないとな」
商談に同行するたびに、自分がクロージングを担当するAさん。
部下たちの表情は一見明るく見えますが、その実態は違いました。
「課長が来てくれれば、どうにかなる」
「自分で決めなくていい。どうせ課長が決めてくれる」
部下の内心にあったのは、成長への意欲ではなく、依存の安心感でした。
一方のAさんは、毎週複数の同行訪問をこなし、体力的にも精神的にもすり減っていきました。
「なんで俺がここまでやらないといけないんだ……」
口には出さないものの、そう感じる日々が続いていました。
部下への苛立ちも募る。
でも、部下が育たない本当の理由に、Aさん自身はまだ気づいていませんでした。
◎転換の一手
コンサルティングを導入してから、私がまず確認したのは「部下がぶつかっている壁の種類」でした。
Aさんに聞きました。
「部下が困ったとき、具体的にどんな壁にぶつかっていますか?」
「考えたことなかったですね」
「壁を代わりに越えることはされていますが、壁を言語化したことは?」
「ないです」
多くのトップ出身マネージャーが、ここで詰まります。
自分は感覚でできてしまうので、壁が「言葉」になっていないのです。
凡人の部下には、感覚ではなく言葉が必要です。
長嶋監督が松井選手に「スイングのビュッが違う」と言っても、凡人の選手には伝わらないのと同じです。
そこから始めた取り組みが、次の3ステップです。
【ステップ1:壁の言語化】
部下がぶつかる壁を「初回接触の壁」「提案の壁」「クロージングの壁」の3つに分類し、それぞれに対して「どんな行動をとれば越えられるか」を具体的な言葉にしました。
【ステップ2:行動レベルへの落とし込み】
「うまくやれ」「気合を入れろ」ではなく、「クロージング前日に決裁者の関心事を一つ確認しておく」「最初の5分で相手の課題を引き出す質問を3つ準備する」という具体的な行動として指導シートに落とし込みました。
感覚を行動に変換することが、このステップの核心です。
【ステップ3:振り返りの場づくり】
週次の短い会議で「今週どの壁にぶつかったか」「どんな行動をとったか」「次はどうするか」を話し合う場を設けました。
Aさんが「答えを出す場」ではなく、部下が「自分で考える場」として機能させることが肝でした。
最初は沈黙が続きましたが、3ヶ月もすると部下自身が「次はこうしてみます」と口にするようになっていきました。
半年後、Aさんはこう言っていました。
「前は毎週同行していたのが、今は月2回になりました。それで、部下の成約率が下がるどころか、むしろ上がったんです。正直、驚いています」
■ 逆説的な真実:「育てる」を手放したとき、人は育ち始める
育成について、当社が大切にしている考え方があります。
「人は、きっかけによって気づき、自ら育つ」
人格者が傍にいれば、その存在だけで部下は育ちます。
でも、私自身を含め、ほとんどの営業マネージャーは凡人です。
凡人が「育てよう」と力むほど、それはコントロールになっていきます。
凡人にできること。
それは「きっかけを与え続ける仕組みをつくること」です。
道標に例えるなら、目的地まで手を引いて連れていくのではなく、要所に道標を立てて、自分で歩く力を育てることです。
道標は黙って立っているだけで、歩く人の背中を押し続けます。
営業マネージャーの仕事は、答えを与えることではありません。
部下が自分で答えを見つけるための「場」と「仕組み」をつくることです。
そして、考え方にも守破離があります。
営業担当者レベルの考え方(営業活動の考え方)は体験を通じて比較的早く定着しますが、営業マネジメントの考え方は体験の積み重ねがなければ軸になりません。
まずは「壁を言語化して行動レベルに落とし込む」というマネジメントの考え方を、仕組みと連動させることが先決です。
仕組みを動かすのは、考え方の軸です。考え方の軸がない状態では、どれほど優れた仕組みも空回りします。
■ 処方箋——今日から始める「壁の棚卸し」
難しいことは要りません。今日の会議でこれ一つだけやってみてください。
「今、あなたが一番困っている場面はどこですか? 具体的に教えてください」
部下にこう聞いて、出てきた答えを書き出す。それが「壁の棚卸し」の第一歩です。
壁が見えてはじめて、指導が始まります。
壁が見えていない状態での指示は、霧の中を走れと言うのと同じです。
そして、棚卸しした壁に対して「どんな行動をとれば越えられるか」を一緒に考える。
答えを教えるのではなく、考える場を設ける。それだけで、会議の質は変わり始めます。
壁を言語化し、行動レベルに落とし込み、振り返りの場をつくる。
この3ステップを仕組みとして回し続けることで、「育てようとしなくても、育つ組織」が少しずつ姿を現してきます。
■ まとめ
育成の悩みを抱える多くの経営者は、「もっと熱心に教えれば育つはずだ」と考えます。
でも、熱意だけでは育ちません。
その部下、まだ諦めなくていい。足りないのは熱意じゃなく、仕組みだ。
育成を仕組みに変えることで、営業組織は静かに、しかし確実に変わっていきます。
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