仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第535話 営業の引き継ぎができないとき、まず疑う「訪問で何を聞くか」
「担当を替えたら、後任が『改めて伺ってきます』ばかり言っている」
「前の担当が分かっていたはずのことが、会社のどこにも無い」
「渡す書類は作らせた。それでも、次の担当替えでまた一からだ」
一つでも思い当たるなら、次の担当替えでも、後任は同じように一からやり直すおそれがあります。
引き継ぎの打ち合わせを増やしても、渡す書類を整えても、それだけでは変わりにくいものです。
起点が、もっと手前にあるからです。
担当替えのたびに営業の引き継ぎができないのは、なぜですか?
営業の引き継ぎができないとは、担当替えのあと、前任が訪問で聞いてきた中身が会社の側に無いため、後任がお客様との話を一から聞き直すことになる状態のことです。
担当替えを決めた経営者の多くは、この状態を、交代の日の段取りが足りなかったせいだと受け止めます。
そこで陥りやすいのが、「交代の日に間に合わせる」という罠です。
次の社長と私の会話は、説明のために想定した場面です。
社長「担当替えの前に打ち合わせを二回やらせましたし、渡す書類も作らせています」
私「その書類には、何が書いてありますか」
社長「社名、取引の履歴、窓口の方の名前……必要なものは一通りです」
私「前の担当の方が訪問のたびにお客様から聞いてきたことは、いまどこにありますか」
社長「それは、本人が覚えているはずです」
私「訪問で何を聞いてくるかは、会社として決めていますか」
社長「いえ、そこは各自のやり方です」
打ち合わせの回数や書類の欄を整えること自体が、いつの間にか目的になっています。
手段の目的化が、引き継ぎの場面で起きているということです。
日々の訪問で聞いた中身が会社の側に集まっていなければ、交代の日に渡せるものは限られます。
当社では、お客様との対話で何を聞き出すかを会社が決めることが、企業ノウハウだと考えています。
決めずに個人のやり方にしておくと、聞く中身が人ごとにばらばらになり、上司と部下に「うちにとって大事な情報は何か」と尋ねても答えが食い違います。
聞いた中身をどこにため、どの場で見るかも個人まかせのままなら、中身は担当者の手元にとどまり、会社で共有されないままになります。
試しに、部長から若手までに「訪問で必ず聞いてくることは何か」を、同じ時間で書き出してもらってみてください。
聞くことが決まっていないと、聞いた中身は人ごとにばらばらになり、会社として残すことも見ることも難しくなります。
後任が一から聞き直すまでに、社内では何が起きているのですか?
後任が一から聞き直すまでには、社内で四つの段が順に起きていて、ここではそれを「聞き直しの連鎖」と呼びます。
担当者が、それぞれの聞き方で聞く
会社が聞くことを決めていないので、ある担当者は次の注文の時期から聞き、別の担当者は先月の納期への不満を聞いて帰ってきます。
どちらも間違いではありませんが、聞く中身が人によって違えば、後から並べて見ることができません。
聞いた中身が、担当者の手帳にたまる
営業会議で話されるのは、たいてい案件の金額と時期です。
「来月、三百万円の見込みです」という報告はあっても、なぜ見込めるのかという中身は担当者の手帳に残ったままで、会議は数字の確認で終わります。
担当替えの日に、訪問の前から分かる情報だけが渡る
担当替えが決まると、前任は社名・取引の履歴・窓口の名前を書いて渡します。
どれも大事な情報ですが、お客様が何に困り、この先どうしたいと考えているかは、その欄のどこにもありません。
後任が、種まきから一からやり直す
後任は、お客様が何に困り、この先どうしたいのかを聞き直すところから始めます。
話してもらえる関係も一からつくり直すことになり、経営者・上司の目に入るのは、「改めて伺います」の報告が続き、そのうち客への提案がいつまでも始まらない姿です。
四つの段のどこにも、前任や後任の手抜きはありません。
連鎖の起点が、担当替えの日ではなく、最初の訪問の前にあるからです。
受託製造業で担当替えをしたとき、どこで一からになり、どこで変えられるのか?
受託製造業の担当替えで、後任が一からになる場面を一つ組み立ててみます。
たとえば、こんな会社を想定してみてください。
図面を受けて加工する受託製造業で、社長が、役職の無い中堅の営業担当と若手の担当の受け持ちを入れ替えることにしました。
長く取引のあるお客様を、若手にも経験させたいという考えからです。
一から聞き直す担当替え
中堅の担当は、社名・取引の履歴・窓口の名前を丁寧に書いて渡し、社長もそれを読んで、これで足りると思いました。
ところが若手の報告は、「先方の話を一通り聞いてきました」「改めて伺います」の繰り返しで、三か月たっても次の試作の話が出てきません。
気になった社長が過去半年の営業会議の記録を見返すと、訪問で聞いている中身は担当者ごとにばらばらでした。
試作の話ばかり書いている人もいれば、納期への注文しか書いていない人もいます。
会社として「訪問でこれを聞く」と決めたものは、一つもありませんでした。
受け持ちに加わった別のお客様を、若手が初めて一人で訪ねる前の日のことです。
若手が社長の席に来て、「先方には、何を聞いてくればいいですか」と尋ねました。
社長の口から出たのは、「困っていることを聞いてこい」の一言だけでした。
言いながら社長は、それが、会社がこれまで営業に言ってきたことのすべてだったと気づきます。
続きから聞ける担当替え
こうした場面でまず確かめたいのは、会社としてお客様に何を届けたいのか、という一点です。
この会社の売りは、試作の段階から加工の相談に乗れることでした。
その価値を届けるには、次の試作がいつあるのか、発注を決めるのは誰なのかを、先に知っておかなければなりません。
聞くことは、担当者の腕前ではなく、会社が届けたい価値から決まります。
届けたい価値から、訪問で聞くことを二つ決める
社長と営業の全員で、試作の段階から相談に乗るために欠かせないことを出し合い、「次の試作の予定」と「発注を決める人」の二つに絞りました。
聞いてきた中身を、週の会議で上司と一緒に見る
週の会議では、金額の報告の前に、二つのうち何を聞けたかを担当者が話し、次の訪問で何を提案し何を聞くかを上司と決めます。
聞けていないことは、次の訪問で聞きます。
会議で確かめた中身は、新しい書式や道具は作らず、これまでの会議の記録にお客様ごとに書き残すことにしました。
担当替えの予定が無いお客様にも、同じ二つを聞く
担当替えが決まってから聞き始めたのでは間に合わないので、予定の無いお客様にも同じ二つを聞き、会議で見ることを続けました。
半年後に別の担当替えがあり、後任は会議の記録で前回の話を読んでから訪ねました。
最初の報告は、「前回伺っていた秋の試作の件、進み具合を確かめてきました」でした。
社長は、ぽつりとこう言いました。
「担当替えの日に慌てていたが、うちは訪問の前に何を聞いてくるかを、一度も決めていなかったんだな」
担当替えのたびに後任が一から聞き直しているなら、問題は交代の段取りより、ずっと手前にあるのかも知れません。
無料レポートでは、変われない組織の多くが正しいことを間違った順序でやっている、という見方と、「誰に」「いつ」「どの価値を」が決まっていないままでは担当者任せのままになる構造を解説しています。
引き継ぎができるかどうかは、担当替えの日ではなく、いつ決まっているのですか?
引き継ぎができるかどうかは、担当替えの日ではなく、日々の訪問の時点で決まっている、という見方ができます。
たとえば、予約の電話を受ける人と、当日に迎える仲居が別の人だという旅館を思い浮かべてください。
それでも泊まる人は、着いてから同じことを一から聞かれません。
電話口で何を聞くかが宿として決まっていて、聞いた中身が当日の仲居まで伝わっているからです。
何を聞くかが決まり、聞いた中身が次の人へ渡るから、担い手が替わっても一からになりません。
その聞くことは、食べられないものを外した夕食や記念日のお祝いなど、宿が当日届けたいものから決まっています。
営業に置き換えると、お客様について会社が持つものには、対話を介さずに集まる顧客データと、対話で集める顧客情報があります。
顧客データは、取引の履歴のように、もともと会社の側にあります。
顧客情報は、担当者が対話で集めます。
聞くことが決まっていなければ、中身は人ごとにばらばらです。
手帳にためれば、書いた本人しか読めないままです。
見る場が無ければ、書き残しても使われずに終わります。
引き継ぎの成否は、担当替えの日を迎える前の、毎回の訪問で決まっていると考えられます。
そう、何を聞くかの拠り所は、会社が届けたい価値にあります。
営業とは、お客様に提供価値を届ける仕事です。
当社では、決まった項目を埋めるためではなく、提供価値の反応を高めるために顧客情報を収集していると考えています。
顧客管理システム(CRM)などの道具は、何を聞くかが決まり、聞いた中身が使われる状態ができてから入れるもので、できていないうちに入れても、入力そのものが仕事になってしまいます。
訪問で何を聞くかを会社が決めるには、次の営業会議で何から始めればよいですか?
訪問で何を聞くかを会社が決める第一歩は、次の営業会議の冒頭で始められ、用意するものは特にありません。
まず、会社がすでに既存のお客様への売りにしている価値を、一つ挙げてください。
新しく決め直す必要はなく、受託製造業なら「試作の段階から加工の相談に乗れること」のように、営業がふだんお客様に話している売りで構いません。
次に、その価値を届けるにはお客様から何を聞いておく必要があるかを全員で出し合い、出てきたものの中から一つに決めます。
決めた一つを、その週は全員が、自分のお客様への訪問で聞いてきます。
週末の会議では、金額の報告より先に、その一つを聞いた結果を話してもらいます。
聞くことを会社の側に置くための場づくりであり、気づきの共有の始まりでもあります。
たとえば、週末の会議でこんな報告が並ぶことがあります。
ある担当者は、「試作の予定を聞きましたが、未定とのことでした」で報告が止まります。
別の担当者は、同じ問いから、未定なのは先方の設計の方針が秋に決まるからだ、というところまで聞いてきます。
同じ一つを聞きに行っても、持ち帰る中身はここまで違ってきます。
あなたの会社の担当替えでは、後任に何が渡っていますか?
担当替えで後任に渡されているのは、たいてい社名や取引の履歴といった、訪問の前から分かることです。
あなたの会社では、訪問で何を聞いてくるかを、会社として決めていますか。
それとも、聞くことは担当者ごとのやり方のままになっていないでしょうか。
次の担当替えの日を待たなくても、聞くことの一つ目は、次の営業会議で決められます。
決めた一つを全員が聞いてくると、さきほどの二人のような持ち帰る中身の差が、会議の机の上に並びます。
どう聞けば悩みや願望まで届くのか、聞けた中身をどの提案へつなぐのか——次に考えることは、その差から始まります。
担当替えのたびに後任が一からになる状態を抜け出すには、聞くことを決める考え方と、それを続ける仕組みの両方が欠かせません。
無料レポートでは、考え方が伴わないとシートを埋めることや会議を開くことが目的になってしまう理由と、振り返りの場・課題解決の場が定期的に機能しているかを確かめる3分採点の項目を載せています。
自社の会議がどうなっているかと照らし合わせながら、読んでいただければ幸いです。
