仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第512話 うちに分析する部署はない。それでも社長は毎日、誰かを評価している
「うちに、データを分析する部署なんてありません」
「あいつは頑張っている。……いや、頑張っていると思います」
「誰に何を任せればいいのか、正直、決めきれないんです」
「来期の目標ですか。前年比10%アップ以外に、出し方を知らないもので」
このうち一つでも口にしたことがあるなら、この先を読んでください。
いま危ういのは、分析する部署がないことではありません。
部署がないまま、社長が毎日、誰かを評価し続けていることです。
しかもその評価は、毎回それらしい顔をしてやってきます。
経営者が陥る「部署さえあれば」という罠
先日、ある製造業の社長から、こんな相談を受けました。
「営業管理システムの導入を検討しています。うちには営業企画のような部署がないので、数字を見る人間がいないんです」
私はこう尋ねました。
「社長、いま営業スタッフは何人ですか」
「六人です」
「その六人のうち、誰がいちばん伸びていますか」
「Aですね。数字も出ていますし、動きもいい」
「では、Aさんが伸びていると判断された根拠を、三つ教えてください」
社長は、そこで黙りました。
しばらくして、こう言われました。
「……そう言われると、困りますね。数字と、あとは、まあ、印象です」
これが罠です。
社長は「見る部署がない」と言いながら、実際には毎日、誰よりも熱心に人を見ているのです。
見ていないのではありません。
見た結果が、どこにも残っていないだけです。
部署を作れば解決する、システムを入れれば解決する——そう考えた瞬間に、手段が目的にすり替わります。
分析する部署は、分析するための材料があって初めて意味を持ちます。
材料がない会社に部署を置いても、印象を集計する部署が一つ増えるだけです。
事実が消えていく「四つの目減り」
材料が残らない会社では、判断のもとになる事実が、四つの段階を経て静かに目減りしていきます。
① 現場では、事実が起きている
Aさんが、ある顧客の担当者から「来期、ラインを一本増やすかもしれない」と聞きます。
これは事実です。
しかも、来期の売上に直結する一級の情報です。
② 日報では、事実が要約される
その日の夜、Aさんは日報にこう書きます。
「B社訪問。良好」
四文字です。
ラインの話は、どこにも書かれていません。
書かなかったのは、手を抜いたからではありません。
日報に「そこまで書く欄」がなかったからです。
③ 会議では、要約が数字に置き換わる
翌週の営業会議で報告されるのは、訪問件数と見積提出枚数です。
Aさんは「訪問12件、見積3件」と読み上げます。
この時点で、ラインの話は完全に消えています。
消えたことに、誰も気づきません。
消えたという事実自体が、どこにも残っていないからです。
④ 評価では、数字が印象に戻る
期末、社長は六人分の数字を並べて考えます。
数字は似たり寄ったりです。
そこで最後に効いてくるのが、「Aは動きがいい」「Cは最近元気がない」という印象です。
一周しました。
現場の事実から出発したはずの判断が、社長の印象に戻ってきています。
間にあった三つの段階は、事実を運ぶどころか、事実を削り取る工程として働いていたわけです。
【実録事例】社長の「見立て」が、二年続けて外れた製造業
BtoBの製造業の話です。
営業スタッフ六名、社長は先代から会社を引き継いだ二代目でした。
顔色で決めていた頃
この会社では、人事も目標も、社長が一人で決めていました。
適材適所を見極めるといっても、拠点を任せる人選は「あいつは腰が据わっている」という社長の見立て一つです。
個人目標は、全員一律で前年比10%アップでした。
社長自身、この決め方に納得していたわけではありません。
「他に決め方を知らないんです。前年比なら、少なくとも文句は出にくい」
ところが二年続けて、見立てが外れました。
拠点を任せた社員は、半年で「自分には向いていません」と申し出てきました。
一律10%アップの目標は、ベテラン二人は楽々と超え、若手三人は一度も届きませんでした。
社長が漏らした一言が、この会社の状態をよく表しています。
「毎日いちばん近くで見ているのは私のはずなのに、なぜ私がいちばん外すんでしょうか」
記録が口を利き始めた日
転換点は、拍子抜けするほど地味な場面でした。
私が社長に、「先週、Aさんがどの顧客に、なぜ行ったのか、言えますか」と尋ねたときです。
社長は「Aは……B社と、あと二、三軒だと思います」と答えました。
「思います」でした。
毎日見ているつもりだったものは、記憶であって、記録ではなかったのです。
そこから、三つのことだけを始めました。
ステップ1:訪問先ではなく、訪問を決めた理由を書く
日報の項目を減らし、代わりに一行だけ足しました。
「なぜ、その顧客に、その日行くと決めたのか」です。
訪問件数は、書かせるのをやめました。
ステップ2:会議で、その一行だけを読む
営業会議で数字の読み上げをやめ、六人が書いた「行くと決めた理由」を一人ずつ読み上げてもらいました。
所要時間は十五分ほどです。
ここで初めて、社長は六人の判断の癖を、並べて見ることになりました。
ステップ3:外れた見立てを、消さずに残す
社長の見立てと、実際に起きたことが食い違ったとき、それを消さずに書き留めました。
「Aは慎重だと思っていたが、金額の大きい案件ほど早く動く」といった具合です。
半年後、社長はこう言いました。
「Aが優秀なんじゃなくて、Aは大きい案件のときだけ優秀だった。それが分かったのは、私の見立てが外れた記録が残っていたからです」
判断を先送りしてきた分だけ、材料は減っています
「うちに分析する部署なんてない」——その一言で先延ばしにしてきた人事と目標の判断が、いま何件たまっているでしょうか。
新しい部署も高額なシステムも増やさずに、社長の見立てが外れなくなるまでに何をしたのか。その中身を、無料レポートで具体的に書いています。
逆説的な真実——名医は、記憶で診断しない
腕のいい医者ほど、患者の顔色だけで診断しません。
必ずカルテを開きます。
前回いつ来たか、そのとき何を訴えたか、どの薬がどう効いたか。
カルテがあるから、医者は「前回と比べてどうか」を語れるのです。
多くの社長は、全社員の主治医のつもりでいます。
実際、誰よりも近くで見ています。
けれども、カルテを一枚も持っていません。
カルテのない主治医にできるのは、その日の顔色で診断することだけです。
そして顔色の診断は、当たるときもあれば、外れるときもあります。
問題は当たり外れではありません。
外れたときに、なぜ外れたのかを検証する材料がないことです。
ここで、多くの会社が順序を取り違えます。
カルテを書く前に、分析する部署を作ろうとするのです。
けれども、部署が分析するのはカルテであって、記憶ではありません。
分析する部署がないことは、問題ではありません。分析される材料がないことが問題なのです。
前年比10%という目標も、まったく同じ構図です。
去年の数字しか材料がないから、去年に10%を掛けるしかない。
材料が去年の数字だけなら、目標の出し方は前年比しか残らないのです。
処方箋——明日、一人分のカルテを一行だけ書く
今日からできることを、一つだけお伝えします。
出し惜しみはしません。これで全部です。
明日、営業スタッフを一人だけ選んでください。
そして、その人が今週動いた案件を一件だけ取り上げて、こう聞いてください。
「なぜ、その客のところに、その日行くと決めたんですか」
返ってきた言葉を、要約せずに、そのまま一行で書き留めます。
これだけです。
所要時間は五分もかかりません。
一人分で構いません。全員に広げる必要はありません。
ただ、やってみると、おそらく三つのことに気づきます。
一つ目は、その一行を残しておく場所が、社内のどこにもないこと。
二つ目は、残りの五人分について、同じ問いへの答えを誰も持っていないこと。
三つ目は、来月この一行を読み返す約束が、どこにも存在しないこと。
この三つに気づいたなら、それは失敗ではありません。カルテを一枚書いた人にしか見えない景色です。
まとめ
分析する部署がない会社は、判断できない会社ではありません。
判断した結果が、残らない会社です。
一行を書き留めたその日から、あなたの手元には、去年の数字以外の材料が生まれ始めます。
材料が増えれば、目標の出し方は前年比だけではなくなります。
人の見極めも、その日の顔色以外を根拠にできるようになります。
問題は、その一行を、来月も再来月も残し続ける形が、まだ社内にないことです。
一枚のカルテは五分で書けますが、六人分を一年続ける形は、思いつきでは作れません。
「うちに分析する部署なんてない」と言い続けてきた会社が、部署を作らずに判断の材料を貯め始めるには、順序があります。
その順序を、現場で何が起きているのか、なぜ仕組みが機能しないのかという具体例とあわせて、無料レポートにまとめました。
