仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第507話 「人を育てるのに向いてない」と思う社長ほど、営業が育つ
「うちの営業は、正直なところ使えない」
「何度教えても、同じところで止まる」
「結局、自分が客先に行ったほうが早い」
「自分は、人を育てるのに向いてないんじゃないか」
4つ目の言葉が頭に浮かんだ夜のことを、覚えていらっしゃるでしょうか。
部下への苛立ちが、いつのまにか自分への疑いに反転する。
あの反転は、社長個人の資質の問題ではありません。
むしろ、育成を向き不向きで語れてしまうこと自体が、その会社の危険信号です。
なぜなら、それは育てる力が誰か一人の中にしかないことを、社長自身が認めている状態だからです。
経営者が陥る「育てられる人探し」という罠
先日、ある社長からこう相談されました。
社長「私は、人を育てられない人間なんです。だから今度は、育てるのが上手い人を営業部長として採用しようと思っています」
私「その方が辞められたら、御社の育成はどうなりますか」
社長「……また、元に戻りますね」
私「では、その方がいる間に何が会社に残りますか」
社長「……残るものが、思い浮かびません」
ここに落とし穴があります。
本来の目的は、若手が自分で判断して動けるようになることでした。
それがいつのまにか、育てるのが上手い人を見つけることにすり替わっている。
これが手段の目的化です。
営業管理システムも、外部研修も、面倒見のいい部長も、すべては道具です。
そして道具は、その会社が「営業とは何か」をどう考えているかと連動して初めて動きます。
社長の頭の中に「営業とは、現場を見て判断することだ」という答えがあるのに、それが一
も言葉になっていなければどうなるか。
どんなに優秀な人が入っても、同じ場所で止まります。
あなたの会社では、「人が育たない理由」を、誰かの性格や資質で説明していませんか。
答えが増えるほど、人が育たなくなる連鎖
「使えない営業」は、放っておいて生まれるのではありません。
丁寧に教えている会社ほど、次の順番で生まれていきます。
① 部下が聞きに来て、社長が3秒で答える
「その物件、築何年だ」「22年です」「なら熱源は更新時期だ。図面をもらってこい」。
やりとりはこれで終わり、部下は納得した顔で車に乗り込みます。
正確で、速くて、親切な対応です。
② 部下は、結論だけを覚える
答えが正確であるほど、部下は判断材料を見る手前で止まります。
覚えたのは「築22年なら熱源は更新時期」という結論だけ。
翌週、築15年で稼働時間が長い物件に出会っても、その結論は使えません。
そしてまた聞きに来ます。
③ 社長が現場に出る回数が増える
部下の提案書に赤を入れ、直しきれずに自分が客先へ出向く。
出向けば決まります。
決まるから、また出向く。
教える時間は、ここでさらに削られていきます。
④ 苛立ちが、自分への疑いに反転する
会議室で「うちの営業は使えない」と口に出す。
その日の帰り道、「いや、育てられない自分のほうが問題なのか」と反転する。
この往復が始まったとき、会社の中では育て方が社長の頭の中だけにある状態が完成しています。
【実録事例】業務用空調設備の設計・施工業で起きたこと
技術者として現場を歩いてきた二代目社長のお話です。
抱え込み期
受注の大半は、社長個人が取ってきていました。
現場を一度見れば、熱源の劣化も更新時期も配管の状況も判断できます。
ところが、その判断を部下に説明しようとすると、口から出るのは結論だけでした。
「あの現場は、見れば分かる」
部下が持ち帰る提案書には赤を入れ、直りきらなければ自分が客先に出向いて決めてしまう。
営業担当を採用しても、数字が上がらないまま数年で辞めていきました。
そこで社長は、育成が得意な人を外から採ることにします。
中途採用した営業部長は、半年で退職しました。
残ったのは、元に戻った現場と、ひとつの結論だけでした。
「自分は、人を育てるのに向いていない」
手渡し期
私が最初にお願いしたのは、たったひとつでした。
「向いている人を探すのを、やめてみませんか」
そして、こうお伝えしました。
育成を向き不向きで語れてしまうこと自体が、この会社の育て方が一人の資質に乗っている証拠です。
資質のある人がいなければ人が育たない組織は、その人が抜けた瞬間に止まります。
社長が着手したのは、次の3つでした。
ステップ1:事後の赤入れをやめ、商談前の3問に変える
提案書に赤を入れる作業を止めました。
代わりに、商談に出る前に3つだけ質問します。
「竣工年と前回更新はいつか」
「稼働時間はどれくらいか」
「図面は手元にあるか」。
答えを教えるのではなく、判断に必要な材料を先に問う形にしたのです。
ステップ2:答えではなく、答えられなかった問いを溜める
部下が詰まった問いを、そのまま「聞くことリスト」に書き足していきます。
社長の答えは書きません。
書くのは問いだけです。
3か月で、リストは20項目を超えました。
ステップ3:問いを投げる係を、社長から外す
リストが溜まってきた4か月目から、その問いを若手同士で投げ合う時間を営業会議の中に置きました。
社長も同席しますが、最初には話しません。
半年後、部下は赤入れを求めに来なくなりました。
若手が自分から図面を持ち帰り、会議では「この物件、稼働時間を聞き忘れました」という言葉が出るようになりました。
社長はこう言われました。
「向いていないのは、本当でした。ただ、向いていないから紙に書いたんです。それだけが、会社に残りました」
「うちの営業は使えない」と「自分は人を育てるのに向いてない」の間を往復している状態から、どうやって抜け出すのか。
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社長の頭の中にある判断を、会社に残る形に変えていく道筋を、順を追って解説しました。
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名工の手には、治具がない
腕のいい職人は、素手で精度を出してしまいます。
だから、治具をつくりません。
治具をつくるのは、素手では精度が出ない人のほうです。
そして治具がひとつできると、その日入ったばかりの人でも同じ精度が出ます。
名工が引退した現場には、何も残りません。
治具をつくった現場には、全員分の精度が残ります。
ここで誤解していただきたくないのは、治具は人を型にはめる金型ではないということです
金型は、素材を決まった形に押し込む道具です。
治具は、作業する人の手を支えて、狙ったところに刃が入るようにする補助具にすぎません
判断するのは、あくまで手を動かす本人です。

営業の仕組みも、まったく同じ位置づけです。
仕組みを管理のために使えば、部下は言われたことをこなすだけになります。
仕組みを気づきのきっかけを与えるために使えば、部下は自分で考え始めます。
先ほどの会社で残った「聞くことリスト」は、正解集ではありませんでした。
答えが書いていないからこそ、若手は現場で自分の目で確かめるしかなかったのです。
人は、教えられて育つのではありません。
自分で気づいて、実践したときに育ちます。
だから私は、育成そのものではなく、育つ場をつくることをお手伝いしています。
その場は、3つに分けて考えると設計しやすくなります。
自分で決めさせるチャレンジの場。
次に何をするかを自分の言葉にする、考える場。
やってみた結果を持ち寄る、振り返りの場。
先ほどの会社では、商談前の3問がチャレンジの場になり、聞くことリストが考える場になり、若手同士で問いを投げ合う会議が振り返りの場になりました。
使った道具は、どれも紙一枚です。
特別なシステムは、ひとつも導入していません。
そして皮肉なことに、その場をつくるのは、いつも「自分は向いていない」と言う社長のほうなのです。
向いている人は、自分の勘と間合いで何とかしてしまうため、会社に何も残さずに去っていきます。
今日からできること、ひとつだけ
明日、部下に何かを教える場面が来たら、こうしてみてください。
答えを言う前に、「自分は何を見て、そう判断しているか」を一言だけ先に言う。
言い方の型はこれだけです。
「これは◯◯を見て判断している。だから答えはこうなる」
先ほどの例なら、「これは竣工年と稼働時間を見て判断している。だから熱源が更新時期だと言える」となります。
そして、部下にメモさせるのは、後半の答えではありません。
前半の判断材料の一言だけをメモさせてください。
その場で理解できたかどうかの確認は不要です。
1回で伝わらなくて構いません。
やることは、これだけです。

まとめ
この一言を実際に口に出してみると、おそらく同じ感触を持たれるはずです。
言えた。
しかし、これは自分がその場にいたときにしか残らない。
部下のノートに散らばるだけで、会社にはどこにも溜まっていない。
その感触こそが、次に進むための入口です。
やり方は分かったが、続ける形がない。
ここから先は、口に出した一言をどこに溜め、誰が投げ、どうやって会議の中に置くかという話になります。
社長が細部まで指示しなくても若手が自分で判断できるようになるのは、その形ができてからです。
「自分は人を育てるのに向いてない」という自覚をお持ちなら、その自覚はむしろ武器になります。
向いていないと分かっている人だけが、自分の外に道具をつくれるからです。
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