仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第540話 既存のお客様から注文が増えない会社は、お客様の1か月先しか知らない
「十年来のお客様なのに、注文の量がちっとも増えない」
「毎月届くのは、いつもと同じ中身の注文ばかりだ」
「長い付き合いなのに、毎年やってくるのは値下げの相談だけ」
もし、あなたの会社の経営会議でこんな言葉がこぼれているなら、注文が途切れずに届いていることを安心の材料にするのは、一度やめてみてください。
途切れない注文に安心しているうちに、お客様の次の大きな買い物は、先に話を持ってきたほかの会社に決まってしまいます。
注文が切れずに続いていることと、取引が広がっていることは、同じではありません。
既存のお客様から注文が増えないとは、どういう状態なのか?
既存のお客様から注文が増えないとは、長く取引が続くお客様から注文は毎月届くのに、その量が年を越しても増えず、中身も毎回同じ品目の繰り返しという「いつもの注文」のまま変わらない状態のことです。
ここで見ておきたいのが、取引の幅です。
取引の幅とは、そのお客様が自社から買う品目の種類と、一つあたりの単価の広がりのことです。
お客様の購買の担当者(毎月の発注書を出す人)の発注書に、何種類の品目が並び、それぞれにいくらの値が付いているかを思い浮かべてください。
その顔ぶれが、何年も変わらないのです。
第236話でも書いたとおり、当社では、悩みを今のこと、願望を先のことととらえ、その願望の先の長さは、お客様の社内の立場によって違うと考えています。
大きく分けると、次の二段です。
部門の担当者が見ているのは1か月以内の先が多く、焦点は今起きている問題の解決にあります。
経営幹部が見ているのは、1年以上先の課題です(業種によっては1年以内のこともあります)。
課長や部長は、そのあいだにいます。
ただし、先の長さは役職だけでは決まらず、人によって違います(経営幹部でも目先だけを見る人がいれば、担当者でも先を見ている人がいます)。
題名の「お客様の1か月先」は、この手前の段、つまり部門の担当者の要求の先の長さを指しています。
「いつもの注文」は、お客様の社内のだれの、どれくらい先の要求に応えたものなのか?
「いつもの注文」は、相手先の購買の担当者が来月のラインを止めないために出す発注、つまり担当者の手前の要求に応えたものだ、という見方ができます。
担当者にとって大事なのは、決まった部品が、決まった日に、決まった数だけ届くことです。
だから取引は十年続きました。
ところが、取引の幅は、もっと奥の段にあります。
課長や工場長が見ている、もっと先の願望の側にこそ、まだ取引の無い品目や単価の高い仕事がある、と考えられます。
次の社長と私の会話は、説明のために想定した場面です。
社長「うちは十年、一度も注文を切らしたことがないんです」
私「課長さんや工場長さんが、来年や数年先に何をしたいと話しているかは、ご存じですか」
社長「えっ、……そういえば会議で一度聞いた気はしますが、その後どうなったかは分かりません」
ここが落とし穴です。
いつもの注文を間違いなく納めることは、本来、お客様の信頼を得て取引を広げるための手段だったはずです。
それがいつの間にか、注文を落とさないことそのものが営業の仕事の中身になるという、手段の目的化が起きています。
十年続いた注文は、十年分の信頼であって、十年分の広がりではありません。
長いお付き合いのお客様で、注文の中身が同じまま止まるのはなぜなのか?
長いお付き合いのお客様で注文の中身が同じまま止まるのは、先の話を受け止めて案件にする場が、会社の中に無いからです。
多くの会社では、管理が「お客様から言われて発生した案件」だけになり、「こちらから仕掛ける案件」がごっそり抜け落ちています。
順に見てみます。
言われた注文を、確実に納めることが営業の中身になる
発注書を受け、図面を確かめ、納期どおりに届ける流れを毎月まちがいなく回せる営業ほど、お客様からも社内からも頼りにされます。
第164話で書いた受動型の営業とは、怠けている営業のことではなく、言われた仕事を誠実にこなしている営業のことでもあります。
耳にした先の話が、報告のまま宙に浮く
納品のついでに課長から「来年は組立の手間を減らしたい」と聞いた営業は、その話をきちんと会議で報告します。
会議では皆がうなずきますが、その話に合わせて何を持っていくのか、誰がいつ動くのかは決まらないまま、次の話題へ移ります。
話は報告されたのに、案件にはならなかったのです。
要求がはっきりした注文ほど、値段の話になる
担当者の要求は、品目も数量も納期もはっきりしているぶん、ほかの加工会社と比べられやすく、毎年の打ち合わせは値下げの相談が中心になっていきます。
単価の高い品目が、先に話を持ち込んだ会社へ移る
課長や工場長の先の願望に合わせて先に話を持ってきた会社があれば、新しい品目はそちらへ流れていきます。
自社の手元に残るのは、値下げを求められ続ける「いつもの注文」ということになりかねません。
部品の加工を請け負う製造業では、取引の幅はどこで止まっていたのか?
部品の加工を請け負う製造業で、取引の幅がどこで止まっていたのかを、想定の場面で見てみます。
たとえば、こんな会社を想定してみてください。
同じ図面が届き続ける取引
この会社には十年以上取引の続く機械メーカーのお客様があり、購買の担当者から毎月、同じ図面の部品の発注が届いていました。
一昨年、営業担当者はお客様の工場見学の席で、工場長から「3年後には新しいラインを入れたい」という話を聞き、会議で報告しています。
去年は、納品のついでの立ち話で、製造課長から「来年は組立の手間を減らしたい」と聞き、これも会議で報告しました。
皆、うなずきました。
けれども、その話に合わせた案件は、誰の一覧にも載りませんでした。
営業担当者が手を抜いたわけではなく、聞いた話を受け止めて案件にする置き場が、会社のどこにも無かったのです。
課長の1年先に合わせて選んだ品目
転機は、お客様の工場が毎年開く、協力会社向けの説明会(仕入れ先や加工先の社長が招かれる会)でした。
壇上に立った工場長は、来年から動く新しいラインについて説明し、その部品は組み付けた状態で、別の加工会社に納めてもらうことになったと話しました。
そして、去年その会社のほうから話を持ってきてくれたことに、礼を述べたのです。
客席でそれを聞いた社長は、単価の高い品目が、先に話を持ち込んだ会社へ移っていたことを知りました。
同時に、自社の営業も一昨年、その新しいラインの話を会議で報告していたことを思い出しました。
お客様の先の話を知らなかったのではなく、知っていた話が、案件として誰の手にも渡っていなかったのです。
当社がこの場面でいちばん大事だと考えるのは、社長が営業を責める方向へ進まなかったことです。
社長が次の営業会議で進めたのは、次の3つでした。
1つ目に、課長が去年話していた「来年は組立の手間を減らしたい」という、1年先の願望を取り上げ直しました。
2つ目に、その願望に合わせて、今のラインで使う部品を組み付けた状態で納める話を、持っていく品目として1つ決めました。
3つ目に、それを案件として会議の一覧に載せ、半年から1年かけて追う話であることを、全員で確かめました。
当社では、規模の大きいお客様にまだ取引の無い品目を持っていくには、それに見合う準備が要ると考えています。
課長との話は、少しずつ動き始めています。
社長はいま、こう振り返っています。
「注文が毎月来ていたので、お客様のことは分かっているつもりでいました」
「十年来のお客様なのに、注文の量がちっとも増えない」という悩みは、営業の頑張りを足すことでは動きません。
注文の量がちっとも増えないという悩みを前に、自社の営業の取り組みが16項目のどこまで整い、定着しているかを、無料レポートの「3分採点」で振り返っていただけます。
営業担当者が耳にしていても、会社として1か月先しか知らないのはなぜなのか?
営業担当者が先の話を耳にしていても、会社として1か月先しか知らない状態になるのは、聞いた話が案件として誰かの管理に載らないままになっているからではないか、という見方ができます。
町の電器店を思い浮かべてみてください。
ある家から電球や乾電池の注文が毎月届き、店主はどの部屋にどの電球が要るかまで覚えているのに、その家の建て替えの計画は誰も知らず、新しい家の家電は、先に相談に来ていた別の店で買われていきます。
そう、毎月の注文で分かるのは、その家の目の前の暮らしまでなのです。
部品の加工でも同じです。
担当者の要求に応える注文は、第335話で書いたこなす仕事(決まった注文を確実に回す仕事)にあたり、単価と品目を広げるのは、こちらから仕掛ける営業です。
そして、仕掛ける営業は即決ではないので、期間軸で追いかける必要があり、管理に載っていない案件は、追いかけられないまま忘れられやすくなります。
ここで「もっと聞いてこい」と営業に言っても、事情は変わりません。
聞いてきた話を受け止めて案件にする置き場が無ければ、聞いた話が増えるほど、宙に浮く話が増えていくからです。
会社が知っているお客様の先の長さは、管理に載っている案件の先の長さで決まる、という見方ができます。
明日の営業会議で、まず1社について何を決めればよいのか?
明日の営業会議で、まず1社について決めていただきたいのは、そのお客様に自社から持っていく品目を、1つに絞ることです。
取り上げるのは、注文が長く続いているお客様のうち、相手先に購買の担当者のほか、課長や部長、工場長がいる会社です。
1社で構いません。
会議では、その会社の課長・部長や工場長が「この先どうしたいと言っていたか」を、営業担当者がこれまでに耳にした範囲で話してもらいます。
新しく聞きに行く必要はなく、立ち話や工場見学の席で聞いたひと言で十分です。
出てきた話の中から1つを選び、それがいつのことか、何年先のことなのかを確かめます。
そのうえで、その願望に合わせて持っていける品目を1つ決め、案件として会議の一覧に載せてください。
もし話が何も出てこなければ、それ自体が、会社として1か月先しか知らないことを確かめる材料になります。
1件を載せたら、翌週の会議の議題を上から順に見て、その1件を話し合う番があるかを確かめてみてください。
次にいつ、誰が、何を持って訪ねるのかを話し合う番が議題に無ければ、その1件は翌週の会議で一言も話されないまま過ぎていきます。
1件を決めることはできても、その1件を半年先まで追いかけていく段取りは、まだ決まっていないかも知れません。
あなたの会社では、長く続くお客様の、1年以上先の願望に合わせた案件が、誰かの管理に載っていますか。
それとも、毎月の注文をまちがいなく納めることで、お客様のことは分かっているつもりになっていないでしょうか。
「毎月届くのは、いつもと同じ中身の注文ばかりだ」という嘆きは、取引の幅を広げる準備を始めてよいという合図でもあります。
いつもと同じ中身の注文ばかりが届く会社が、お客様の悩みと願望を言葉にし、「誰に、何を、いつ売るか」へつなげていく考え方を、無料レポートで解説しています。
