仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第516話 売上未達で迎えた下半期。挽回できるのは、案件を捨てた会社です
「上期の分は、下半期で取り返します」
「案件は全部動いているので、あとは決まるのを待つ段階です」
「この時期に諦める案件なんて、一件もありません」
九月の終わりから十月の頭にかけて、上期の締めが出そろう時期になると、経営者の口からこの三つの言葉が、ほとんど同じ順番で出てきます。
言っていること自体は正しいのです。
ただ、先に申し上げておきます。
上期の案件を全部追いかけたまま下半期に入った会社は、下半期もほぼ同じ終わり方をします。
原因は営業の頑張りが足りないことではなく、追いかける対象を一件も減らさないまま、残された半年を二十件にも三十件にも配り直そうとしたことにあります。
上期の売上未達が確定したとき、社長は何から手をつけるべきでしょうか
売上未達とは、期の途中に残っている挽回可能な遅れのことではなく、締めた時点で計画と実績の差が動かせない事実として確定した状態のことです。
上期が終わった瞬間、その差はもう営業活動では動きませんから、動かせるのは下半期の使い方のほうです。
先日、産業用設備の販売・施工業を営む二代目の経営者から、こんな相談を受けました。
「乾さん、上期が二千万円ほど足りませんでした。下半期は案件を全部回して取り返します」
そこで、次の質問を私はしました。
「その案件のうち、今から契約になって、年度内に据付と検収まで終わるものは何件ですか。
経営者の回答は、こうでした。
「……そこは、数えたことがありませんでした」
ここに、上期を未達で終えた会社が最初につまずく落とし穴があります。
追いかけることが手段ではなく目的にすり替わり、案件を追っている状態そのものが、取り返している証拠として扱われてしまうのです。
訪問した、見積を出した、長く話した——どれも仕事をした事実には違いありません。
ただ、この業態で売上が立つのは、判をもらった日ではなく検収が下りた日です。
工事が終わらなければ、今期の数字にはなりません。
よって下半期の頭で経営者が最初に手をつけるべきなのは、追い方の見直しではなく、追う対象そのものを減らすという判断です。
全部の案件を平等に追うと、なぜ下半期に一件も決まらなくなるのでしょうか
一件あたりの金額に開きがあり、受注から納品まで工期が挟まるこの業態で、案件を減らさないまま下半期に入ると、次の四つが順番に起こります。
たとえとして、試験の時間配分を思い浮かべてください。
制限時間は最初から決まっていて、問題の数も決まっています。
全問に均等な時間を配ると、最後の一問まで手はつきますが、どれも途中で止まり、答案には点にならない筆跡だけが残ります。
点になる配分はこの逆で、解き始める前に手をつけない問題を決めておき、そこで外すのは解けない問題ではなく、解けるけれどもこの制限時間では解き終わらない問題です。
営業の現場で起きているのも、同じ配分の問題です。
① 決まっていないという理由だけで、全案件が同じ列に並ぶ
案件表を開くと、三千万円の設備更新も、話が出ただけの小口の修繕も、同じ書式で同じ列に並んでいます。
(この一覧を眺めているあいだは、二十件が二十件分の可能性に見えます)
② 動いている案件の数が増え、一件あたりに使える時間が薄くなる
下半期に入ると、経営者は訪問の頻度を上げるよう指示を出しますが、担当できる人数も、工事に出せる技術者の数も、上期のままです。
結果として、一件あたりに使える時間だけが静かに薄まっていきます。
③ 受注は立ったのに、売上が立たない案件が生まれる
期末が近づくと大型案件がようやく動き出し、判をもらった時点で社内は沸きますが、着工が二月、据付が四月にずれ込めば、その金額は今期の数字には一円も乗りません。
受注は営業の努力が届いた結果ですが、売上は工期が届いた結果です。
④ 全員が全案件に手をつけているので、誰も止めようがなくなる
どの案件にも訪問記録があり、見積も出ていて、全員が真面目に動いています。
だからこそ、どれを止めるべきかという話が、社内のどこからも出てこなくなります。
【実録事例】案件を捨てた会社は、下半期の入り口で何をどう決めたのでしょうか
二代目の社長が先代から引き継いだ取引先を抱えるこの会社は、前の期の上期を、計画に対して二千万円ほど足りない数字で終えました。
全部が「見込み」だった上期
上期の案件表には、二十件近くが並んでいました。
金額の大きいもの、決まりそうなもの、話が出ただけのものが、同じ一覧に同じ書式で載っています。
営業担当者は全件に定期的に顔を出し、社長は月末にその一覧を眺めながら、これとこれが決まれば届く、と計算していました。
どの案件も進行中で、どの案件も落としていません。
誰も何も間違えていないまま、上期は未達で終わりました。
実は、理由は締めた後に分かりました。
金額の大きい案件ほど先方の検討が長く、期末に受注が動いても据付まで終わらないのです。
判はもらったのに今期の売上にならない案件が、二件ありました。
また、早く決めていれば期内に終わったはずの中規模の案件が、大型案件の対応で後回しになり、競合に流れていました。
社長が取った行動は残り半年で全部取り返すというもので、案件表はそのままに、訪問の頻度だけが上がりました。
降ることを伝えた下半期
転機は、工事部門の責任者が会議で口にした一言でした。
「今から契約になっても、年内に人を出せる枠は、残り三つです」
追いかけている案件の数と、工事に出せる枠の数が、このとき初めて同じ表の上に並びました。
当社がご支援に入るときも、最初に確かめるのはこの二つの数字の差です。
営業が追える件数ではなく、会社が納められる件数のほうが、その期の売上の上限を決めています。
ステップ1:期内に工事が終わるかの一点で、案件表に線を引く
社長は判断の基準を、金額でも確度でもなく、今から動いて期内に据付と検収まで届くか、という一点に絞りました。
ここで大事なのは、案件を細かく分類し直したのではなく、基準を増やす代わりに基準を一つに減らしたという点です。
この線を期内到達の線と呼びますが、内側に残ったのは、二十件のうち七件でした。
ステップ2:線の外に出た案件は、顧客に直接伝える
外に出た十数件について、社長と担当者は黙って訪問を減らすのではなく、一件ずつ顧客に出向いて伝えました。
「今期は当社からのご提案を控えます。ただ、来期のご計画に合わせて、四月に改めてご相談させてください」
黙って足が遠のく場合と、月を決めて降りる場合とでは、翌期に残るものが違います。
(実際、この会社が降りた案件のうち三件は、翌期に先方のほうから声がかかりました)
ステップ3:空いた枠と時間を、残した案件の止まっている理由を外すことに使う
残した七件について、社長は何が決裁を止めているのかを、一件ずつ顧客の側に確認しに行きました。
出てきたのは、予算の期ずれ、仕様の未確定、既存設備を止められる時期の三つです。
いずれも先方の事情でした。
社長自身が同席し、工期から逆算した日付を先に置いて、いつまでに決まれば期内の据付に間に合うかを顧客と一緒に確認しました。
下半期の終わり、この会社は残した七件のうち五件を、期内の売上として計上しました。
受注した件数そのものは上期より減っているのに、数字が戻ったのは追う対象を減らしたからです。
社長は最後に、こう言いました。
「取り返すというのは増やすことだと思っていました。減らすことだとは、考えたこともありませんでした」
上期の案件を全部追いかけたまま下半期に入るという状態は、営業の努力不足ではなく、案件の並べ方を決める側の判断から生まれています。
その判断を経営者一人の勘に頼らず会社の基準として持つための考え方を、無料レポートにまとめています。
なぜ、追うのをやめた会社のほうが売上未達を挽回できるのでしょうか
追うのをやめた会社が売上未達を挽回できるのは、腹が据わったからでも、営業の腕が上がったからでもありません。
理由はもっと単純で、下半期に使える時間も、工事に出せる枠も、最初から数が決まっているからです。
七件に絞ったこの会社が下半期に増やしたのは訪問の回数ではなく、何が決裁を止めているのかを顧客の側まで確かめに行く時間でした。
二十件に配ったままでは、この時間がそもそも日程に入りません。
薄く配られた時間は全案件の途中までしか届かず、決裁の手前で止まったまま期末を迎えます。
言うまでもありませんが、努力の総量は上期と同じで、訪問した先の数はむしろ減っています。
それでも数字が戻るのは、営業という仕事が、動いた量の合計ではなく、一件が決裁に届いたかどうかで採点されているからです。
当社では、挽回とは足すことではなく寄せることだと考えています。
参考までに、うまくいかない会社は降りる案件を見込みの薄い順に選び、うまくいく会社は期内に終わらない順に選びます。
前者は当たり外れの選別ですが、後者は期限の判定です。
今日、社長が顧客に伝えられる一件は、どの案件でしょうか
経営者が今日から一つだけ始めるとすれば、電話を一本かけることです。
いま追いかけている案件から、今から契約になっても期内に工事が終わらないものを一件だけ選んでください。
選ぶときに、金額の大小も、決まりそうかどうかも見ません。
見るのは工期の一点です。
そのうえで経営者自身が電話をかけます。
伝えることは二つです。
一つは今期は自社から提案を控えること、もう一つは来期の計画に合わせて何月に改めて相談させてほしいかということです。
この二つ目を省かないでください。
月を決めずに引くのは撤退ですが、月を決めて引くのは、次の期への予約です。
電話が終わったら、その一件に使うはずだった訪問を、期内に間に合う案件のうちの一件に振り替え、その顧客には工期から逆算した日付を伝えます。
いつまでに決めていただければ年度内の据付に間に合うのか——この一言は、担当者ではなく経営者自身の口から伝えられることをお勧めします。
ここまでが、今日できることです。
ただ、一本かけ終わったところで、別のことに気づきます。
この判断ができたのは、経営者が自分の口で言い切ったからです。
残り十数件を、営業担当者が自分で線を引いて降りられるでしょうか。
そのための基準も、降りた案件を翌期に拾い直す置き場所も、社内にはまだありません。
捨てる判断を、社長以外の人間にも下せるようにするには何が要るのでしょうか
捨てる判断が経営者の電話一本で終わっているあいだは、毎年、同じ時期に同じ電話をかけ続けることになります。
一件は降りられます。
来期も、気づきさえすれば降りられます。
けれども、それは仕組みではなく、経営者の記憶と気力の上に乗った例外処理です。
必要なものは三つです。
期内到達の線をどこに引くかという基準、降りると伝えるときの言い方、そして降りた案件を翌期の種として置いておく場所です。
この三つが揃って初めて、捨てる判断は経営者の手から離れ、会社の判断になります。
あなたの会社では、どの案件から降りるかの基準が、経営者以外の人間の口からも出てきますか。
それとも、期末が近づくたびに経営者が一件ずつ電話をかけ、その年の帳尻を合わせただけで終わっていないでしょうか。
上期の案件を全部追いかけたまま下半期に入る——この繰り返しから抜け出すために、会社の中に何を置けばよいのか。
その組み立て方を、無料レポート「成約達人を生み出す組織をつくる」で順を追ってお伝えしています。
追伸)今日の電話で降りた一件は、来期の四月に、あなたの会社の名前で思い出してもらえる可能性が残ります。
断った相手のほうが先に名前を挙げる——その逆転を、来期に確かめていただけると幸いです。
