仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第529話 「早く帰れ」と言うほど、営業の働き方改革は進まない
「もう6時だぞ、早く帰れと毎晩声をかけている」
「定時退社日まで決めたのに、残業が減らない」
「6時に帰したはずの営業が、朝は誰より早く席にいる」
「取引先から、最近は新しい話がないねと言われた」
もし、どれか1つでも心当たりがあるなら、貴社の働き方改革は、社員が早く帰るほど将来の売上を作る仕事が消えていく形で進んでいます。
帰る時刻を決めた経営者ほど、何をやめるかを決めないまま安心してしまう——今日は、その落とし穴を最後まで追いかけます。
営業の働き方改革で、経営者が決め忘れていることは何か?
営業の働き方改革とは、帰る時刻を早めることではなく、その時刻までに何をやめるかを会社が決めることです。
先日、ある社長と私の会話で、この違いがはっきりと表に出ました。
社長「営業の残業を減らそうと思って、毎晩6時に『早く帰れ』と声をかけて回っています。」
私「その6時までに、営業は何をやめることになっていますか。」
社長「やめること、ですか……。それは各自が工夫して、効率よく片付けるものだと思っていました。」
私「では、社長が営業に出させている報告や資料のうち、6時に間に合わせるためにやめてよいものはどれでしょう。」
社長「……いや、それは全部必要です。」
「時刻さえ決めれば、あとは現場が工夫して何とかするものだろう」という声が聞こえてきそうですね。
ところが、この会話に出てきた落とし穴は、帰る時刻を決めた時点で、働き方改革そのものを決めたつもりになってしまうことです。
本来、帰る時刻は何かをやめた結果として早まるものであり、時刻そのものを目標に据えた瞬間に、手段と目的が入れ替わってしまうからです。
時刻を決めることと、仕事を減らすことは、まったく別の決定だということです。
そして、経営者が後者を決めないとき、何を削るかという判断は、誰にも気づかれないまま担当者の手に渡ります。
帰る時刻だけを決めると、営業は何から削り始めるのか?
帰る時刻だけを決めた営業の現場では、削る順番が担当者の手でひとりでに決まり、次の4つの段階を順にたどります。
①6時という時刻が宣言される
朝礼で「今月から、営業は6時に帰ること」と告げられると、営業の島には一瞬、ほっとした空気が流れます。
ただ、同じ朝礼で、夕方の受注報告や会議の資料をやめるという話は、一言も出てきません。
②夕方に入る返事は削れない
夕方になると、取引先から見積もりの催促、納期の確認、在庫の問い合わせの電話が立て続けに入ります。
相手が待っている返事を翌日に回せば、明日の注文が他社へ流れることを、営業は誰よりもよく知っています。
上司宛ての報告も、出さなければ翌朝に必ず呼ばれるので、こちらも削る対象にはなりません。
③成果が見えない仕事から消える
残った時間で6時に間に合わせようとすると、営業が自分で削るのは、今日やらなくても誰にも気づかれない仕事です。
新商品の資料を読み込むこと、取引先の現場へ使われ方を見に行くこと、しばらく注文のない先へ連絡を入れること、提案書の下調べをすること。
どれも、明日の数字にはまだ出てこない仕事です。
④残業は朝と持ち帰りへ移る
それでも片付かない分は、朝の早出と、家に持ち帰ったノートパソコンへ少しずつ移っていきます。
会社の記録の上では残業が減ったように見えても、実際には、時間が見えない場所へ移ったにすぎません。
削られたのは時間ではなく、将来の売上を作る仕事のほうでした。
【実録事例】専門商社は「早く帰れ」をやめて、何を決めたのか?
ある専門商社の社長が当社にご相談に来られたのは、働き方改革を始めてしばらく経った頃でした。
出発時刻だけ決めた荷造り
社長は毎夕6時になると営業の島を回り、「もう6時だぞ、早く帰れ」と声をかけていました。
週1回の定時退社日も決め、その日は社長が自ら照明を落として回るほどの熱の入れようでした。
ところが、6時までに何をやめるかは、社長も含めて誰も決めていませんでした。
社長が求めていた夕方の受注報告、週次会議の資料、社長宛ての同報メール(これは社長が「念のため」と始めたものでした)は、どれも以前のまま残っていたのです。
夕方には取引先から見積もりや納期回答、在庫確認の電話が入るので、その返事もやめるわけにはいきません。
そこで担当者が自分で削ったのは、仕入先から届く新商品の資料の読み込み、取引先の倉庫へ使われ方を見に行く顔出し、しばらく注文のない先への連絡、提案書の下調べという、成果がすぐには見えない仕事でした。
残業は、早出と持ち帰りに形を変えただけでした。
取引先との会話は見積もりと納期の話ばかりになり、ある日、付き合いの長い取引先の購買担当者から「最近、新しい話を持ってこないね」と言われたそうです。
当社が初めてお話を伺ったとき、社長は「社員は早く帰るようになったのに、なぜか会社が細っていく気がする」とこぼしていました。
置いていく荷物を決めた荷造り
転機は、若手の営業が会議の後にぽつりと漏らした一言でした。
「削れるのは、明日困らない仕事だけです。」
社長はこの言葉で、帰る時刻を指示したつもりが、実際には何を削るかの判断を担当者に丸投げしていたことに気づきます。
当社と一緒に書き出してみると、減らすべきだったのは帰る時刻ではなく、社長自身が営業に出させている仕事のほうでした。
そこで、次の3つのステップを順に進めました。
ステップ1:社長の頼みごとから先に取り下げる
社長は朝礼で、自分から営業に求めている報告・資料・会議のうち、実は自分が目を通していないものを今週から取り下げると告げました。
最初に消えたのは、夕方の受注報告と、社長自身も開いていなかった同報メールでした。
ステップ2:削ってはいけない仕事を午前に戻す
次に、担当者が自分で削っていた仕入先資料の読み込みと、使われ方を見に行く訪問を、削ってはいけない仕事として週の午前に戻しました。
当社では、こうした将来の売上を作る仕事を「仕掛ける仕事」、目の前の返事や処理を「こなす仕事」と呼び分けており、時刻に追われると真っ先に消えるのは決まって前者です。
ステップ3:会議で確かめることを替える
最後に、週の会議で確かめることを「何時に帰ったか」から「今週、何をやめたか」に替えました。
それまでの会議は、残業時間と受注の数字を読み上げ、届かない営業に「もっと工夫しろ、気合いで片付けろ」と発破をかけて終わる場でした。
替えてからは、やめた仕事と空いた時間で何をしたかを本人が話し、上司はどこまでできているかを事実で確かめ、来週の午前にどの取引先の倉庫へ行くかまでをその場で決めるようにしました。
結果の数字を眺めて叱る会議から、次の行動を一緒に決める会議へ変わったということです。
社長は今、こう話しています。
「『早く帰れ』は、もう言っていません。代わりに、毎週『今週は何をやめた?』と聞いています。最初にやめたのは、私の頼みごとでした。」
「早く帰れ」と声をかけても残業が減らないのは、帰る時刻の手前で、何をやめるかが決まっていないからです。
「早く帰れ」が空回りしている会社が、やめる仕事を決めて、将来の売上を作る仕事を守るまでの道筋は、無料レポートにまとめています。
帰る時刻を指示するほど、残業が減らないのはなぜか?
帰る時刻を指示するほど残業が減らないのは、時刻が指示ではなく、何をやめたかの結果として決まるものだからです。
「えっ、残業を減らしたいのに、時刻を言うのをやめるのですか」と思われた経営者もおられるでしょう。
引っ越しにたとえると、この構造がよく見えてきます。
トラックの出発時刻だけを決めて、何を置いていくかを決めないまま荷造りを始めた家族を思い浮かべてください。
荷台の広さは変わらないので、出発時刻が近づくにつれて、最後に積み残されるのは、いま使っていない物の入った段ボールです。
毎日使う食器や布団は真っ先に積まれ、季節外れの道具や、いつか読むつもりの本の箱が玄関に置き去りにされます。
営業も同じで、出発時刻だけを決めると、積み残されるのは成果がすぐに見えない仕事です。
時刻だけを決めた改革は、仕事を減らしたことにも時間を守ったことにもならず、中途半端なまま現場の負担を朝と家へ移していきます。
もう一度、言います。
帰る時刻を早めたいなら、先に決めるべきは時刻ではなく、置いていく荷物のほうです。
しかも、荷台をふさぐ荷物を一番多く持ち込んでいるのは、多くの場合、担当者ではなく経営者自身です。
報告も資料も会議も、一つずつは小さな頼みごとでも、積み重なると荷台の大半を占めてしまうからです。
置いていく荷物を決めるのは、担当者ではなく経営者の仕事です。
社長が明日の朝、営業に出させるのをやめられるものは何か?
経営者が明日の朝から営業に出させるのをやめられるものは、ご自身が目を通していない報告と資料です。
今日からできることを1つ、そのまま渡します。
明日の朝礼で、営業に出させている報告・資料のうち、ご自身が目を通していないものを「今週は出さなくてよい」と告げてください。
選ぶ基準は出来の良し悪しではなく、先週それを最後まで読んだかどうかです。
(読まれていない報告は、出させる側にとっても出す側にとっても、誰の判断にも使われていない荷物だからです。)
「今週は」と期限を区切るのは、取り下げても困らないことを、経営者自身が確かめるためです。
ただ、実際にやってみると、翌週のある夕方に、こんな場面に出くわすはずです。
報告を取り下げて空いたはずの夕方に、営業はまた取引先からの見積もりと納期の電話に追われ、空いた分はいつの間にか返事の山に吸い込まれています。
次にどの仕事をやめるのかも、空いた時間で誰がどの取引先の現場へ行くのかも、まだ誰も決めていないからです。
一つ取り下げただけでは、空いた時間は守られないということです。
営業の働き方改革は、やめる仕事を決めた後に何が必要になるのか?
営業の働き方改革は、やめる仕事を決めた後に、空いた時間を将来の売上を作る仕事へ回す段取りと、それを毎週確かめる場が必要になります。
やめる仕事を決めることは荷台に空きを作ることであり、その空きに何を積むかまで決めて初めて、引っ越しは前へ進みます。
そう、働き方改革の本番は、時刻を決めた日ではなく、やめる仕事を決めた翌週から始まるのです。
あなたの会社の営業会議では、何時に帰ったかを確かめていますか。
それとも、今週何をやめて、空いた時間をどの取引先に使ったかを確かめているでしょうか。
「早く帰れ」と言い続けても残業が減らない状態から抜け出すには、やめる仕事と空いた時間に回す仕事を、会社の側で決め直していく段取りが要ります。
残業が減らないと悩む経営者が、空いた時間を仕掛ける仕事へ回し、毎週の会議で確かめるまでの手順を、無料レポートで解説しています。
追伸)あの若手の一言は、口に出さないだけで、どの会社の営業も胸の中で一度はつぶやいている言葉です。
