仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第539話 成功事例が社内で使われない会社では、受注の話が手柄話で終わる
「Aの受注の話は、もう何度も紹介しているんです」
「それなのに、ほかの営業の提案はまったく変わらない」
「結局、あれはAだから取れた、で片づいてしまう」
売れた営業の話を社内で紹介するたびに、こんな思いを胸の中に飲み込んでいる経営者は少なくありません。
紹介の回数を増やしても、表彰を足しても、この状態はなかなか変わらないかも知れません。
変わらない理由は、ほかの営業のやる気よりも、受注の話がどんな形で社内に残っているかのほうにあるのではないでしょうか。
成功事例が社内で使われないのは、ほかの営業のやる気の問題なのか?
成功事例が社内で使われないとは、社内の営業が受注に至った商談の話を紹介しても、ほかの営業の提案には使われず、その人個人の手柄話として扱われている状態を指します。
経営者が陥りやすいのは、「紹介すれば使われる」という思い込みです。
紹介することそのものが目的になり、紹介した後にほかの営業が何を持って顧客のもとへ出ていくのかまでは、社内の誰も見ていない状態になります。
これまでのコラムで取り上げてきた課題を、ある社長と私の対話に置き換えてみます。
社長「うちのAが大きな受注を取ったので、どう提案したのかを全員に紹介しました」
私「ほかの営業の方は、その話をどう使っていますか」
社長「Aの提案書を見に行って、同じ提案を担当先へ持っていっています。でも、決まらないんです」
私「Aさんの受注の話は、どこから始まっていましたか」
社長「何を提案して、いくらで決まったか、からです」
私「最初の訪問で、先方は何と言っていたのでしょう」
社長「……そこは聞いていません。正直、ほかの営業のやる気の問題だと思っていました」
この会話の中で問題になっているのは、紹介の回数でも、ほかの営業の熱意でもありません。
欠けていたのは、受注の話が「どこから始まったか」という部分です。
ほかの営業に渡っていたのは、受注の話の後半でした。
売れた話を聞いたほかの営業は、なぜ自分の顧客で空振りするのか?
受注の報告が提案と金額だけで上がる会社では、売れた話を聞いたほかの営業が、こんな順番で空振りすることがあります。
ここでは、提案書だけが社内を渡っていくこの流れを、「後半だけが渡る『空振りの連鎖』」と呼んでおきます。
受注の報告は、提案と金額で上がる
受注が決まると、営業は報告書に「何を提案したか」と「いくらで決まったか」を書いて上げてきます。
報告書に、最初の訪問で先方が口にした悩みや、そこから何度聞き直したかを書く欄が無ければ、受注の話はそこで途切れ、売れた理由が残らない形になります(書かなくても、受注という結果は変わらないからです)。
報告の段階で、受注の話は始まりと途中を落としています。
ほかの営業は、提案書を持って外へ出る
経営者が褒めた受注の話を聞いて、ほかの営業は自分から提案書を見に行くことがあります。
真面目な営業ほど、「同じ提案をすれば、自分の担当先でも決まるはずだ」と考えて、その提案書をそのまま外回りの鞄に入れていくかも知れません。
ほかの営業の手元に届くのは、提案書という結果の部分に限られます。
先方の最初の言葉が違うまま、提案が届く
ほかの営業の担当先は、Aさんの顧客とは別の会社で、最初に口にする悩みも違うことがあります。
それでも営業が、先方の言葉を聞き切る前に提案書を広げてしまえば、先方は「うちは困っていない」と返すほかありません。
提案は先方の机に届いても、先方の悩みには届いていないということです。
「あの人だから取れた」に落ち着く
空振りが何度か続くと、ほかの営業はその提案書を鞄から出さなくなることがあります。
やがて社内では、「あれはAさんだから取れた」という言い方が、誰も疑わない説明として定着していくこともあります。
受注の話は、会社が使える材料ではなく、その人の手柄話として扱われるようになります。
法人向けの印刷業で、受注の話がほかの営業に使われたのは、何が変わったからか?
たとえば、こんな法人向けの印刷業の会社を想定してみてください。
企業からチラシやパンフレットといった販促物の注文を受けて、刷って納めている会社です。
受注した提案書を持ち歩く外回り
営業のAさんが大きな受注を取るたびに、社長はAさんを褒めていました。
ほかの営業は自分からAさんの提案書を見に行き、同じ「版の管理の一本化」の提案を、自分の担当先へ持って外回りに出ていきます。
しばらくすると、社長の決裁の机には、同じ中身の見積もりが次々に回ってくるようになりました。
ところが返ってくるのはどれも「うちは困っていない」という返事で、見積もりは失注のまま重なっていきます。
半年もすると、「あれはAさんだから取れた」が社内の合言葉になっていました。
社長の机に回ってきていたのは、Aさんと同じ提案書の見積もりばかりでした。
最初の訪問で先方が何と言ったかを書いた見積もりは、1枚もありませんでした。
最初の言葉を確かめる外回り
きっかけは、社長がAさんの受注報告書と、同じ案件の最初の訪問の日報を並べて読んだことでした。
最初の日報に書かれていた先方の言葉は、「チラシの単価をもう少し下げられないか」です。
受注報告書に書かれていた提案は「版の管理の一本化」で、二つの間には大きな隔たりがありました。
続く日報をたどると、Aさんは、なぜ単価が気になるのかを何度も聞き直していました。
支店ごとに中身を直すので刷り直しが多いこと、さらに本部の担当者が毎月、支店から上がってくる修正の確認に追われていることと、先方の本当の悩みに少しずつ近づいていたのです。
受注報告書には、その間が1行もありませんでした。
ほかの営業が使えなかったのは提案の中身ではなく、最初の言葉から本当の悩みまでの間が、社内に残っていなかったからではないでしょうか。
社長がその後に続けたことは、3つです。
一つ目に、受注の報告が上がるたびに、褒める前に日報を順にめくり、先方の言葉が変わった訪問がどこかを探しました。
二つ目に、最初の言葉と受注した中身の間にあった聞き直しを、その訪問の日報から拾い出しました。
三つ目に、ほかの営業には提案書ではなくその最初の言葉を伝え、似た言葉を口にしている自分の担当先1社で、次の訪問のときに背景を聞いてもらいました。
しばらくして、社長はこう話しています。
「Aさんの提案書を持たせるより、先方が最初に何と言ったかを持たせるべきだった」
受注の話が手柄話になっていく会社が、自社のどこで止まっているのかは、無料レポートの自己点検の項目で確かめられます。
「成功事例を組織内で定期的に共有する仕組みがある」「質問形式の営業で、顧客に課題を語らせる場面を作れている」といった項目のほか、「成功企業のマニュアルをそのまま真似れば、うちも同じになれる」という思い込みも取り上げています。
手柄話のまま止まっている受注の話を、まず自社の目で点検してみてください。
売れた理由は、提案から受注までの間のどこにあるのか?
売れた理由を探すとき、多くの経営者は、何を提案したか、何が受注の決め手になったかのどちらかに目を向けます。
「提案が良かったから売れたのでは」という声が聞こえてきそうですね。
当社では、原因と結果の間には試行錯誤があり、多くの事例では原因と結果しか報告されないために、その間の試行錯誤が表に出てこないと考えています。
だからこそ、人の事例はあくまでも参考にしかならず、コントロールできることは自分たちで作るしかない、ということです。
社内の受注の話も、これと同じ形で残っているという見方ができます。
算数のテストで、答案の答えの欄だけを写しても、条件が違う次の設問は解けず、次の設問を解く人に要るのは途中の式のほうで、受注の話でいえば、先方が最初に口にした悩みから、背景を聞き直して本当の悩みに行き着くまでの過程がそれにあたります。
ここ、大事なので、もう一度言います。
ほかの営業が自分の顧客で使えるのは、受注という結果よりも、その間のほうではないでしょうか。
当社では、顧客が初めに話す悩みは本当の悩みではなく、背景を聞いて本当の悩みにたどり着く過程こそが受注を決めると考えています。
売れた道筋を本人の頭の中にしまっておかず、途中から開いて見せておけば、ほかの営業も自分の顧客で使えるのではないでしょうか。
売れた理由は、提案の中身よりも、その間の聞き直しの中にあると考えられます。
そこで、受注の話を提案の中身からではなく、先方が最初に口にした悩みから残し、本当の悩みに行き着くまでの聞き直しを並べて残してみる価値があります。
ほかの営業は、提案書ではなく、その最初の言葉と似た言葉を口にしている自分の担当先で、その話を使うことができるのではないでしょうか。
持たせるのは提案書ではなく、先方の最初の言葉です。
経営者は、受注の報告を受けたときに何を確かめればよいのか?
経営者が受注の報告を受けたときに確かめたいのは、何を提案したかより先に、先方が最初の訪問で何と言っていたかです。
ただ、受注の報告を待つより早く、明日にでも試せる場面があります。
次に、ほかの営業の見積もりが決裁に回ってきたら、判を押す前に、その案件の最初の訪問の日報で先方が口にした言葉を見てください。
その言葉を、最近受注した案件の最初の言葉と見比べます。
似ていれば、見積もりを出す前に「先方がなぜそう言ったのか、背景を一度聞いてきてほしい」と、その営業に頼みます(新しい場や帳票を用意する必要はありません)。
まずは決裁の机の上で、一度試されることをお勧めします。
営業が背景を聞いてくると、先方の本当の悩みが、受注した案件とはまったく別のものだと分かることがあります。
たとえば、先方の社内で部署ごとに発注の窓口がばらばらで、請求の照合に経理の担当者が毎月追われている、といった悩みです。
このとき経営者は、ほかの営業が受注の話から使えたのは提案の中身ではなく、最初の言葉から背景を聞き直す順序のほうだったと気づくのではないでしょうか。
同時に、もう一つのことにも気づきます。
決裁のたびに経営者が1件ずつ頼む形では、次に回ってくる見積もりには届きません。
経営者が細部まで指示し続けなくても、最初の言葉と聞き直しがほかの営業の手に渡っていく形が、まだ社内にないからです。
成功事例が社内で使われる会社に変わるには、何が要るのか?
成功事例が社内で使われる会社に変わるには、受注の話を「何を提案して、受注したか」ではなく、「先方が最初に何と言い、どう聞き直したか」から残すことが要ると考えられます。
受注の話が手柄話として扱われるのは、売れた営業の自慢のせいでも、ほかの営業のやる気のせいでもありません。
決裁の机で一度頼んでみると、背景を聞き直す順序がほかの営業の役に立つ場面に、思いがけず出会うこともあります。
そこから先は、その順序を誰が残し、どうやって次の見積もりに渡していくのかという話に移っていきます。
あなたの会社では、受注の話は先方の最初の言葉から残っていますか。
それとも、何を提案していくらで決まったかという結果のほうだけが、社内を回っていないでしょうか。
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