仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第536話 AIを使っても営業が変わらないのは、浮いた時間の行き先がないから
「AIを入れて、資料作りは確かに速くなった」
「社員も毎日使っているのに、営業の中身が変わらない」
「受注も売上も、去年と同じ数字が並んでいる」
「これでは、AIが宝の持ち腐れだ」
もし、どれか一つでも胸に引っかかったなら、問題はAIの性能や社員の使い方とは別にあるかも知れません。
資料作りが速くなっても営業が変わらないときは、速くなった後の時間をどこに使うかが、社内で決まっているかどうかを確かめる必要がありそうです。
この状態を放っておくと、AIの利用料を払い続けても、営業は去年と同じ形のままになりかねません。
AIを使っても営業が変わらない会社では、何が起きているのですか?
AIを使っても営業が変わらないとは、資料作りなどの作業は速くなったのに、浮いた時間がお客様への活動に回らず、受注や売上に変化が出ていない状態のことです。
次の会話は、AIを入れた経営者が速くなったこと自体を成果として数える場面を、私が想定して組み立てたもので、実在の会社とのやり取りではありません。
社長「AIを入れてから、営業の提案資料や報告書が、ずいぶん速く仕上がるようになりました」
私「速くなった分の時間で、どのお客様への動きが増えましたか」
社長「何時間短くなったかなら、毎月の報告の紙に全員分を書かせています」
私「では、その時間で訪ねた取引先は、先月より何社増えましたか」
社長「……それを書く欄は、報告の紙にありません」
AIという手段が、いつのまにか「速くすること」そのものを目的にしてしまう、という落とし穴です。
当社では、AIが短くしてくれるのは作業の時間までで、そこから次の行動を考え、月の予定にまで落とし込むのは人の領域だと考えています。
この記事では、その考えをもとに、AIの成果を「効率」と「効果」に分けて見ます。
効率は、作業にかかる時間が短くなることです(夕方までかかった提案資料の下書きが昼過ぎに終わる、など)。
効果は、浮いた時間でお客様への活動が増え、売上が変わることを指します(既存の取引先へ新しい製品の提案に出かける回数が増える、など)。
何時間短くなったかを数えるだけでは、営業への効果があったかどうかは確かめられないということです。
効率の数字は、報告の紙に書きやすく、目に入りやすいものです。
効果の数字は、浮いた時間をどこに使うかを誰かが決めない限り、動きません。
AI で浮いた時間は、どこへ消えていくのですか?
AIで浮いた時間は、行き先が決まっていなければ、営業担当者の机の上にある「こなす仕事」に吸い込まれていくおそれがあります。
当社では、営業の仕事を「こなす仕事」と「仕掛ける仕事」に分けて考えています。
こなす仕事とは、お客様からの問い合わせへの返事や見積もりの手直しのように、放っておけば相手から催促が来る仕事です。
仕掛ける仕事とは、既存の取引先へまだ納めていない製品を勧める2品目の営業や新しい取引先の開拓のように、自分から動かなければ誰にも求められない仕事です。
浮いた時間が消えていく流れとして、たとえば次の4つの段階が考えられます。
① 速くなったことを、みんなで喜ぶ
月の営業会議で、担当者が順に「資料作りが半分の時間で終わるようになりました」と報告し、経営者もその数字にひと安心します。
この段階では、浮いた時間をどこに使うかという話は、まだ誰の口からも出ていません。
② 浮いた時間が、こなす仕事で埋まる
昼過ぎに資料を仕上げた担当者の机には、返事を待っている問い合わせのメールと、手直しを頼まれた見積書が待っています。
空いた時間は、催促の来る仕事から順に埋まっていきます。
③ 会議の話題が、道具の話に寄っていく
会議の後半は「この使い方が便利だった」「別のAIのほうが速いらしい」という情報交換になり、取引先の名前はほとんど出なくなります。
道具の話は前向きに聞こえるので、誰もこれを問題だとは感じません。
④ 売上が動かない理由を、AIの側に探し始める
半年たっても受注が変わらないと、「うちの仕事には、AIはあまり向いていないのでは」という声が出てきます。
こうしてAIの見直しや乗り換えが始まり、浮いた時間の行き先は決まらないまま次の月を迎えます。
4つの段階のどこにも、浮いた時間をどの取引先に向けるかを決める場面が出てこないということです。
資料作りが速くなったメーカーは、どこで浮いた時間の行き先を決め直したのですか?
資料作りが速くなったメーカーの姿を、自社製品を作るメーカーの場面として組み立ててみます。
実在の一社ではなく、流れを分かりやすくするために想定した会社です。
停滞期:速さを数える帳面
この会社では、経営者がAIを入れ、営業担当者は商談の後の報告書や提案資料の下書きを、AIで作るようになりました。
毎月の営業会議には、担当者がそれぞれ一枚の報告の紙を出しますが、AIを入れた月から、その紙に「AIで短くなった時間」という欄が足されました。
この紙が、停滞期の帳面です。
欄の数字は月を追うごとに増え、会議では「先月より速くなった」という報告が続きました。
ところが、既存の取引先へまだ納めていない製品を提案する回数も、新しい取引先を訪ねる回数も、AIを入れる前とほとんど変わりませんでした。
浮いた時間は、問い合わせへの返事と見積もりの手直しに、静かに溶けていたのです。
転換期:訪ね先を書き込む帳面
きっかけは、会議の記録をAIでまとめるようになったことでした。
経営者が先月の会議の記録を開くと、検討した中身はきれいに整理されているのに、「決まったこと」の欄だけが空いていました。
会議では毎回たくさん話していたのに、浮いた時間を何に使うかは、一度も決まっていなかったのです。
AIは正直です。
当社では、AIは検討した中身と決まったことを整理してまとめるため、会議で何も決まっていなかったことまで分かってしまうと考えています。
AIで速くなるほど、浮いた時間の行き先を決める話し合いが、かえって必要になります。
この会社が手を付けたことは、次の3つでした。
まず、報告の紙から「AIで短くなった時間」の欄を外し、代わりに「浮いた時間で訪ねる取引先と、持っていく話」の欄を書き込みました。
次に、経営者が「空いた時間で営業に回って」という言い方をやめ、どの取引先にどの製品の話を持っていくのかを、具体的な言葉で伝えるようにしました。
「空いた時間で営業に回って」だけでは、部下から見れば動きようのない曖昧な指示になりやすく、訪ねる取引先と持っていく提案まで具体的にしておく方がよい、という見方ができます。
最後に、会議の後半を、AIの使い方の情報交換から、来月の浮いた時間をどの取引先への提案に充てるかを話し合う時間に替えました。
数か月たつと、見積もりの対応に追われていた担当者の中から、既存の取引先へ2品目の提案に出かける人が出てきました。
もしこの社長が振り返るなら、こんなふうに話すかも知れません。
「AIで変わったのは資料作りで、営業が変わり始めたのは、浮いた時間の行き先を会議で決めるようになってからでした」
資料作りは速くなったのに営業が変わらないとき、AIを替える前に確かめておきたいことがあります。
資料作りは速くなったのに営業が変わらない理由を考える手がかりとして、同じツールでも場の状態によって変わる会社と変わらない会社に分かれるという、ツール全般に通じる見方を無料レポートで解説しています。
浮いた時間の行き先は、AI の使い方ではなく何で決まるのですか?
浮いた時間の行き先は、AIの使い方の上手下手よりも、その時間をどこに使うかを決める場が社内にあるかどうかで決まる、という見方ができます。
当社では、道具が得意なのは、物事を速く、正確に見えるようにするところまでだと考えています。
そこから先、次にどう動くかを考えて決めるのは、人の領域です。
考える場づくりが組織として機能していなければ、どれほど優れたAIを使えても、営業の成果にはつながりません。
反対に、考える場が機能している会社では、AIで作業の時間が短くなるほど、生産性は大きく高まります。
AIは時間を生み出しますが、その時間の行き先までは決めてくれません。
給料が上がった月を思い浮かべてみてください。
増えた分の使い道を先に決めていなければ、月末には細かい出費に消えて、手元にはほとんど残りません。
昇給した分を給料日に積立の口座へ先に移しておけば、増えた分は手元に残しやすくなります。
営業担当者の机の上でも、行き先を先に決めておかなければ、浮いた時間は問い合わせへの返事や見積もりの手直しに消えていきます。
浮いた時間の本来の行き先は、仕掛ける仕事だという見方ができます。
既存の取引先への2品目の提案や新しい取引先の開拓は、誰かが行き先として決めない限り、催促の来る仕事に押し出されてしまうからです。
会議が道具の選び方や使い方の話だけで終わり、行き先を決める時間が取れていないなら、この差はかえって見えにくくなる、という見方もできます。
そう、AIで速くなった後に差がつくのは、道具の性能ではなく、浮いた時間の行き先を決める場があるかどうかなのです。
浮いた時間の行き先を確かめる、明日の第一歩は何ですか?
浮いた時間の行き先を確かめる明日の第一歩は、AIで速くなった作業を持つ営業担当者1人と、5分だけ話してみることです。
用意するものは、紙一枚で足ります。
紙を縦に二つに分け、左側に「AIで速くなった作業」、右側に「浮いた時間で、先週増えたお客様への活動」を書いてもらいます。
右側には、どのお客様に、何をしたのかまで書いてもらってください。
左側は本人が話したとおりに書けば十分で、何分短くなったかを測り直す必要はありません。
右側が書けなければ、空欄のまま残します。
右側の空欄は、担当者を責める材料ではなく、浮いた時間の行き先について話し合う入口です。
空欄なら、「先週の時点で、浮いた時間の使い道は決まっていましたか」「決まっていたなら、何が実行を妨げましたか」の二つを本人と確かめます。
使い道が決まっていなかったのなら、それは本人ではなく、行き先を決める場を持たなかった会社の側の課題として受け止められることをお勧めします。
あわせて、その担当者の翌週の予定表も一緒に開き、浮きそうな時間がどこに入っているかを見ておくと、次の話し合いの材料になります。
空欄に気づいた後、行き先を毎週話し合い続ける場が社内にあるかどうかが、次に問われることになります。
AIを入れたこと自体は、決して遠回りではありません。
速くなった先に、浮いた時間をどこへ向けるかを決める場を置けば、資料作りの速さが、取引先を訪ねる回数へと形を変えていく余地があります。
あなたの会社では、AIで浮いた時間の行き先を、誰かが決めていますか。
それとも、速くなった時間を数えるだけで、その時間がどこに消えたのかは、誰も見ないままになっていないでしょうか。
無料レポートでは、トークやツールの見直しが本来は何番目に来るのか、「指示を待つしかない環境」とは何か、考える場の3つの種類にも触れています。
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