「営業の成約達人」を生み出す仕組みの作り方

代表 乾切抜き 仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第528話 ものづくりの営業組織が「引き合い待ち」なのに忙しい理由

「技術はあるのに、新しい取引先が一向に増えない」

「営業は毎日忙しいのに、取引先の顔ぶれが十年変わらない」

「引き合いが来るうちは回っているのに、来年のことを考えると怖い」

もし、あなたの会社の経営会議でこんな言葉がこぼれているなら、営業の忙しさを一度だけ疑ってみてください。

営業が遅くまで見積もりを書いている姿を「よく働いている」と読んだまま年を越すと、主力の取引先が動いたとき、会社には打つ手が何も残っていません。

忙しいことと、来年の売上の準備が進んでいることは、まったく別の話です。

ものづくりの営業組織は、なぜ引き合いを待つ側に回ってしまうのでしょうか?

ものづくりの営業組織とは、自社でつくった製品を、今の取引先と、これから取引したい先の両方へ届けるために、人と時間と受け持ちを割り振った組織のことです。

ところが多くの会社では、この割り振りが、今の取引先と入ってくる引き合いの側にばかり偏っています。

ある社長と私の会話です。

社長「うちの営業は、毎晩遅くまで見積もりを出しています」

私「その見積もりのうち、営業が自分から取りに行った話はいくつありますか」

社長「……数えたことはありませんが、これだけ忙しいので新しい話も動いていると思っていました」

ここに、引き合いの多い会社ほどはまりやすい「忙しさを営業の証拠にする」という罠があります。

引き合いに素早く応えることは、本来、受注を取るための手段だったはずです。

それがいつの間にか「早く返すこと」そのものが営業の仕事の中身になり、誰も来年の取引先について考えなくなるという、手段の目的化が起きています。

忙しさは、営業が前に進んでいる証拠ではありません。

引き合い待ちの営業は、なぜ毎日あれほど忙しいのでしょうか?

引き合い待ちの営業が毎日忙しいのは、入口から入ってくる仕事が営業の時間を順番に埋めていく、4つの連鎖が起きているからです。

① 引き合いへの速さが、営業の腕前になる

電話やメール、代理店経由の見積依頼に即日で答える営業ほど、お客様から喜ばれ、社内でも頼りにされるようになります。

速さが褒められるほど、営業は机の電話とメールから離れにくくなっていきます。

② 予定表が、入口からの依頼で埋まっていく

見積もり、仕様の確認、既存客の追加注文の納期調整と、毎週の予定表は、相手から来た用件で上から順に埋まります。

空いた時間ができても、次の問い合わせがすぐにそこへ入ります。

③ 足が、行きやすい得意先へ向かう

たまに外へ出られる日も、営業が向かうのは、行きやすく会いやすい、いつもの得意先です。

外に出ている時間までが、今の取引先の御用聞きに使われているのです。

④ 主力の発注が、会社の売上を決めるようになる

数年たつと、売上の大半を数社の主力が占め、その会社の発注の増減がそのまま自社の業績になります。

営業がどれだけ忙しくても、来年の売上の行き先を決めているのはお客様の側になっているということです。

【実録事例】主力の一社が発注を絞ったとき、営業の手元には何が残っていたのでしょうか?

主力の一社が発注を絞ったときに営業の手元に何が残るのかを、当社がご支援した自社製品を持つ製造業の事例でご紹介します。

この会社には、長年取引の続く主力の取引先が数社あり、営業はその窓口と、入ってくる引き合いへの対応を受け持っていました。

見積もりで埋まる週

営業の予定表は、月曜の朝が代理店経由の見積依頼、昼すぎが既存客の追加注文の納期調整、夕方がWebの問い合わせへの返信と、毎週ほとんど同じ形で埋まっていました。

年間で見ると、営業の時間の9割はこなす仕事に使われ、これから取引したい先へ働きかける仕掛ける仕事は、1割に届くかどうかでした。

社長の目には「みんな忙しく働いている」と映っていて、実際に誰も手を抜いてはいませんでした。

それでも、取引先の顔ぶれは十年近く変わっていませんでした。

そして、主力の一社が発注を絞った日がやってきます。

社長は営業を集めて、こう聞きました。

社長「これから取引したい先で、いま話が進んでいるのは何社ある」

誰も、答えられませんでした。

答えられなかったのは、怠けていたからではなく、その問いに答える材料がどこにもなかったからです。

持ち主欄を足した名簿

転機は、私が営業会議で取引先名簿と担当表を見せてもらった場面でした。

既存の取引先には、一社残らず担当者の名前が入っていました。

一方で、これから取引したい先については、名簿に名前を書く欄そのものがありませんでした。

社長「えっ、欄がないということは、誰の受け持ちでもなかったんですか」

営業が新しい取引先に手を付けなかったのではなく、会社が誰にもその持ち場を渡していなかったのです。

この会社が取り組んだのは、次の3つのステップです。

ステップ1:名簿と担当表を並べて見る

当社からお願いしたのは、新しい表を作る前に、今ある取引先名簿と担当表を会議の机に並べ、どの取引先に誰の名前が入っているかを全員で確かめることでした。

並べてみると、名前が入っているのは、すべて既存の取引先でした。

ステップ2:名簿に持ち主の欄を足す

社長は名簿の末尾に「これから取引したい先」の欄を足し、業界の展示会で名刺を交わした先や、代理店から名前の挙がった先を書き出していきました。

書き出す作業は、営業全員で1時間もかかりませんでした。

ステップ3:一人ひとりに割り当て、次の会議で名前と進み具合を聞く

書き出した先を営業一人ひとりに数社ずつ割り当て、次の営業会議からは「担当している先の名前と、どこまで話が進んだか」を必ず聞くようにしました。

あわせて、見積もりの件数と並べて、これから取引したい先への働きかけも見る項目に入れています。

すると、すぐに次の壁が見えてきました。

引き合いへの対応で予定表が埋まったままでは、割り当てられた先に出向く時間が取れないのです。

社長はいま、こう振り返っています。

「忙しさを減らす話の前に、持ち場を渡す話が要るとは思っていませんでした」

取引先の顔ぶれが十年変わらないという状態は、営業の頑張りを足すことではなく、受け持ちの形を組み直すことで動かせます。

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既存客頼みの会社では、なぜ「これから取引したい先」が誰の持ち分にもならないのでしょうか?

既存客頼みの会社で、これから取引したい先が誰の持ち分にもならないのは、会社の当番表に、その場所が初めから書かれていないからです。

学校の掃除当番表を思い出してみてください。

教室、廊下、階段と、一人ひとりの名札がそれぞれの持ち場に貼られ、毎日の掃除の時間には全員が手を動かしています。

けれども、当番表に載っていない校舎の裏は、誰の名札もない空欄のまま、何年たっても掃除されません。

そこを掃除しないことを、誰も怠けているとは感じていないからです。

営業の現場でも、名札のない場所は、全員が忙しく働くほど後回しになります。

行きやすく会いやすい決まった得意先を回る「特定少数」の営業から、狙う顧客の層を決めて価値の提案を仕掛ける「特定多数」の営業へ移るには、先に持ち場を当番表に書き込む必要があるということです。

当社では、その違いを見極める手がかりは、顧客管理と行動管理の2つにあると考えています。

顧客管理は名簿のどこに空欄があるかを映し、行動管理はその空欄の先に誰がいつ出向いたかを映します。

そう、名簿に欄のない取引先は、どれだけ忙しい組織でも、誰の仕事にもなりません。

引き合い待ちを変える一歩目として、明日の営業会議で何を確かめればよいのでしょうか?

引き合い待ちを変える一歩目として、明日の営業会議で経営者に確かめていただきたいことは、1つです。

取引先名簿に「これから取引したい先」の欄があるか、そしてそこに担当者の名前が入っているかを、名簿と担当表を見せてもらって確かめてください。

新しい表を作る必要はなく、いま営業が使っている名簿と担当表を、そのまま会議の机に出してもらえば足ります。

当社が最初の打ち合わせで必ず確認するのも、この2つです。

確かめるときは、営業を責める口調にならないよう、「この名簿に、来年取引したい先はどこに書いてありますか」と、名簿のほうに問いかけるかたちで聞かれることをお勧めします。

欄があって名前も入っていれば、次の会議でその先の進み具合を聞くところから始められます。

多くの会社では、欄が無いか、欄はあっても担当者の名前が空いているはずです。

やってみると、名前を書き込んだだけでは中途半端に終わることに、すぐ気づかれるかも知れません。

誰の持ち分として、週のどの時間で、会議でどう見ていくのかという形がなければ、書き込んだ名前は翌月には引き合いの陰に隠れてしまうからです。

ものづくりの営業組織で、これから取引したい先への働きかけを続けるには何が要るのでしょうか?

ものづくりの営業組織で、これから取引したい先への働きかけを続けるには、仕掛ける仕事の割合について、現実的な目標を持つことが要ります。

よく「こなす仕事6割、仕掛ける仕事4割が理想」と言われますが、引き合いが絶えない製造業で4割を空けるのは、現場の実感からすれば無理があります。

目指すのは6対4ではなく、8対2です。

9割をこなす仕事に使っている会社が8割に下げるのは、わずか1割の違いに見えますが、その1割の差が、数年後の取引先の顔ぶれを大きく変えます。

大事なのは割合の大きさではなく、年間を通じて仕掛ける仕事の目的がはっきりしていることです。

あなたの会社では、これから取引したい先に、担当者の名前と、出向く時間が割り当てられていますか。

それとも、引き合いが落ち着いたら考えようと、空欄のまま毎年の繁忙を越えていないでしょうか。

明日の会議で名簿を開けば、空欄の場所と、その空欄を埋めるために何が足りないかが、自社の言葉で見えてくるはずです。

その次に要るのは、名前を入れた持ち場を、時間の割り振りと会議の進め方につなげて、毎月続く形にすることです。

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