仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第431話 なぜ営業の仕組みだけでは組織は変わらない?「考え方」を軸に、社員の主体性を引き出す方法
小冊子(全8章)の第6章を公開します。
第6章:「考え方」が組織の未来を決める – 社員が自ら輝き出す、自走する組織への変革
なぜ、最新ツールを導入しても、組織は真に変われないのか? その「見えない壁」の正体
社長、これまで私たちは、「見える化」による現状把握、「戦略と戦術」の明確化、そして「計画と実行」の徹底という、組織の成果を高めるための具体的な「仕組み」について、共に考えてまいりました。
これらは確かに、組織運営の効率化や目標達成に不可欠な要素です。
しかし、多くの経営者が、精巧な仕組みや最新のITツールを導入したにも関わらず、「なぜか組織の根っこが変わらない」「社員の主体性が高まらない」という、もどかしい壁に突き当たっているのではないでしょうか。
まるで、高性能なエンジンを積んだ船が、見えない錨(いかり)に引き止められているかのように。
その「見えない錨」の正体、それこそが、組織を構成する一人ひとりの社員の 「考え方」 なのです。
価値観、信念、仕事への向き合い方、困難に直面した時の捉え方。
これらが複雑に絡み合い、組織全体の文化や風土を形成し、目に見える「仕組み」以上に、組織のパフォーマンスや未来を大きく左右しています。
稲盛和夫氏が喝破した真理:「考え方」こそが成果を左右する
かつて経営の神様と称された稲盛和夫氏は、「成果=考え方 × 熱意 × 能力」という、時代を超えて輝き続ける不朽の方程式を遺されました。
この方程式が雄弁に物語るのは、「考え方」という要素が持つ、圧倒的な影響力です。
想像してみてください。どれほど高いスキル(能力)を持ち、燃えるような情熱(熱意)を秘めた社員がいたとしても、もしその根底にある「考え方」が、「どうせ無理だ」「自分の責任ではない」「変化は面倒だ」といったネガティブなものであったり、組織の目指す方向とズレていたりしたら、どうなるでしょうか?
その力は空回りし、周囲の士気を下げ、最悪の場合、組織にとってマイナスの結果すら引き起こしかねません。
まるで、強力なエンジンが逆回転しているようなものです。
逆に、能力や熱意はまだ発展途上であっても、「お客様のために何ができるか」「チームで協力して乗り越えよう」「挑戦から学び、成長しよう」といった、 確固たるポジティブで正しい「考え方」 を持っていれば、それはまるで北極星のように進むべき道を示し、個々の力を結集させ、困難な状況をも打開する驚くほどの推進力となり得るのです。
しかし、私たちは日々の忙しさの中で、この最も根源的で重要な「考え方」の価値を見過ごしてはいないでしょうか。
「理念が大事」「ビジョンを共有しよう」という言葉は会議室に響いても、それが社員一人ひとりの心に届き、日々の選択や行動を変えるほどの力を持っているか?
社長、貴社の組織では、この「考え方」は、単なるお題目ではなく、生きた羅針盤として機能しているでしょうか?
「浸透」という言葉の罠:目指すべきは「軸」としての機能
組織の一体感を醸成しようとする際、「企業理念を浸透させよう」「我が社のバリューを社員に浸透させたい」といった言葉がよく使われます。
しかし、私たちはこの「浸透」という言葉に、ある種の危うさを感じています。
なぜなら、「浸透」という言葉は、どこか一方的に上から下に流し込むようなニュアンスを含み、「浸透させた『つもり』」になってしまうケースが後を絶たないからです。
実際には、社員の腹の底には何も届いておらず、行動変容にも繋がっていない、そんな「浸透の幻想」に陥っていないでしょうか。
立派な額縁に入ったクレド(企業の信条)がオフィスの壁を飾っていても、それが朝礼で唱和されるだけで、日々の困難な判断や、お客様への対応、チーム内でのコミュニケーションといった具体的な場面で、社員が立ち返る拠り所となっていなければ、それは残念ながら「飾り」に過ぎません。
「知識として知っている」ことと、「自分の血肉となり、行動の指針となっている」ことの間には、大きな隔たりがあるのです。
私たちが目指すべきは、曖昧な「浸透」ではありません。
「考え方」が、社員一人ひとりの判断や行動の揺るぎない「軸」として機能しているか 、という視点です。
「この予期せぬトラブルに、我が社の『誠実さ』という考え方に基づけば、どう対応すべきか?」「新しい挑戦を前に、我が社の『挑戦と成長』の精神に照らせば、私はどう一歩を踏み出すべきか?」
このように、 いかなる状況においても自然に立ち返り、自律的な意思決定の拠り所となるレベル にまで昇華されて初めて、「考え方」は組織を動かす真の力、すなわち「自走する組織」のエンジンとなるのです。
組織を支える「考え方」の構造:根・幹・枝葉(在り方・考え方・やり方)
では、組織の強固な「軸」となるべき「考え方」とは、具体的にどのような要素で成り立っているのでしょうか?
私たちは、これを組織という一本の木に例え、以下の3つの階層で捉えることが、その本質を理解する上で有効だと考えています。
1. 在り方(Being):組織の「根」となる存在意義と社会への貢献
最も深く、組織の根幹を成すレベルです。
「私たちは、社会においてどのような存在でありたいのか?」「この事業を通じて、世の中にどのような価値を提供し、貢献を果たしたいのか?」といった、組織の 存在意義そのもの に関わる揺るぎない信念や哲学です。
これが明確に定義され、全社員に深く共有されていれば、細かな指示がなくとも、社員は自ずと組織の目指す方向に向かって、誇りを持って行動するようになります。
例えるなら、大地に深く根を張り、組織全体を支える「根」の部分です。
しかし、このレベルの確立には、経営者自身の深い内省と、組織全体での真剣な対話が必要であり、一朝一夕に築けるものではありません。
2. 考え方(Thinking):組織の「幹」となる価値観と成長戦略
日々の仕事や組織運営における、基本的な価値観、判断基準、そして目指すべき成長の方向性を示すレベルです。
「顧客に対して、私たちは常にどのような姿勢で向き合うべきか?」「チームとして、互いを尊重し、どのように協力し合い、成果を最大化していくべきか?」「変化の激しい時代に、私たちはどのように挑戦し、学び、成長し続けていくべきか?」といった問いに対する、組織としての明確な答えがここにあります。
これは、組織の「幹」として、太く、しなやかに全体を支えます。
特に、チームを率いる 営業リーダーや管理職 にとっては、このレベルの「考え方」を自身の軸として確立し、メンバーに示すことが、チームを効果的に導く上で不可欠となります。
3. やり方(Doing):具体的な「枝葉」となる手法とスキル
目標達成のための、具体的な行動手法、スキル、ノウハウのレベルです。
「どうすれば、より効果的に見込み客にアプローチできるか?」「どのツールを使えば、業務効率が劇的に向上するか?」といった、具体的なHow-to、すなわち「枝葉」の部分にあたります。
もちろん、これらの「やり方」も成果を出すためには重要です。
しかし、強固な「根(在り方)」と太い「幹(考え方)」という土台がなければ、どんなに優れた「やり方」も表面的で応用が利かず、状況が変わればすぐに通用しなくなってしまいます。
風が吹けば容易に折れてしまう、脆い枝葉のようなものです。
多くの企業が、目先の成果を求めて「やり方(枝葉)」の改善、例えば新しい営業手法の導入やツールの活用にばかり注力しがちです。
しかし、本当に持続的な成果を生み出し、変化に強い組織を築くためには、その手法がなぜ有効なのか、どのような価値観に基づいてそれを行うのか、といった 背景にある「考え方(幹)」、さらには組織としての「在り方(根)」といった、より深いレベルでの共有と理解 こそが、何よりも重要になるのです。
【乾流①】「考え方」を絵に描いた餅にしない! 組織の“軸”へと昇華させる5つのステップ
では、この極めて重要な「考え方」を、単なる壁の標語や朝礼の言葉に留めず、組織全体の隅々にまで行き渡り、強固な「軸」として機能させるためには、具体的にどうすれば良いのでしょうか?
私たちは、以下の5つのステップが、その実現に向けて極めて有効であると考えています。
これらは単なる理想論ではなく、私たちが多くの企業変革の現場で実践し、効果を上げてきた具体的なアプローチです。
1. 魂を込めて定義し、血の通った言葉にする:
どこかの企業の美辞麗句を借りてくるのではありません。
社長自身、そして経営幹部が、心の底から「これこそが我が社のDNAだ」「これを社員と共に大切に育んでいきたい」と強く共感し、自ら率先して体現したいと思える、独自の価値観や行動指針 を、具体的で、誰もが情景を思い浮かべられるような分かりやすい言葉で定義します。
「お客様第一」のような曖昧な言葉ではなく、「お客様の期待を『常に』1ミリでも超える提案を追求する」のように、行動レベルでイメージできる言葉を選ぶことが重要です。
この最初のステップで魂を込められるかが、後の浸透度を大きく左右します。
2. 日常の風景に溶け込ませ、意識のスイッチを入れる:
定義した「考え方」を、単にポスターにして掲示するだけでは不十分です。
社内報の記事、イントラネットのトップページ、会議資料のフッター、メールの署名、社員証の裏、オフィスのマグカップ、社員が日常業務の中で、意識せずとも自然に触れるあらゆる場所に「見える化」 し、繰り返し意識させる機会を創出します。
ただし、重要なのは、単に目に触れさせるだけでなく、次の「体験」へと自然に繋がるような仕掛けを意識することです。
「あ、この考え方、今日のあの場面で活かせそうだな」と、社員が自ら気づくきっかけを散りばめるのです。
3. 「知っている」から「できる」へ:腹落ちさせる「体験」のデザイン:
「考え方」が本当に組織の力となるのは、「頭で理解している」状態から、「心で共感し、自然に行動できる」状態へと進化した時です。
その鍵を握るのが、 「体験」 です。
言語化された「考え方」を、 日々の業務の中で実際に「試す」「実践する」「振り返る」ことができる具体的な「仕組み」を、意図的に設計し、組み込む 必要があります。
例えば、週次のチームミーティングで「今週の行動で、我が社の『〇〇(考え方)』を最も体現できた瞬間は?」を共有する時間を作る、顧客対応のロールプレイングで特定の考え方に基づいた応酬話法を練習する、
評価制度の項目に「考え方」の実践度合いを明確に組み込みフィードバックする、など。「言葉」と「日々のリアルな行動」を結びつける、具体的な「体験の場」を創り出すことが不可欠です。
4. 成長の階段を設計する:レベルに応じた期待値の設定:
新入社員に、いきなり経営者と同じレベルの「在り方」を理解し、実践することを求めるのは現実的ではありません。
組織における 経験年数や役職、役割に応じて、習得・実践すべき「考え方」のレベルや内容を段階的に設定 し、成長のロードマップを示すことが効果的です。
例えば、新入社員にはまず、挨拶や報告・連絡・相談といった基本的な行動規範や、顧客に対する誠実な姿勢といった「考え方」の基礎を。
中堅社員やリーダーには、チームワークや後輩指導、問題解決に関する「考え方」を。
そして経営幹部には、組織全体のビジョン実現や社会貢献といった、より高い次元の「在り方」に関わる「考え方」を、といった具合に、成長段階に応じた期待値を設定し、ステップアップを支援します。
5. あれもこれもは禁物:「選択と集中」で深く、確実に根付かせる:
「我が社の価値観はこれとこれと…」と、多くの素晴らしい「考え方」を一度に提示しても、結局、社員の意識は分散し、どれも中途半端な理解と実践に終わってしまいます。
組織に新しい文化を根付かせるには、エネルギーの集中が不可欠です。 「今、この変革期において、我が社が組織全体で最も重要視すべき『考え方』は何か?」を、経営陣が真剣に議論し、優先順位を明確に します。
そして、多くても 3つから5つ程度 に絞り込み、まずはその最重要項目を組織の揺るぎない「軸」として徹底的に定着させることに、全社のエネルギーを集中させます。
一つの太い軸がしっかりと打ち立てば、他の関連する考え方も、その軸に紐づく形で自然と理解され、実践されやすくなるものです。
【乾流②】才能を開花させる土壌:「考えて行動する場づくり」の魔法
さて、「考え方」を組織の軸として打ち立てる上で、これらのステップを実践するだけでは、まだ不十分かもしれません。
なぜなら、どんなに素晴らしい「考え方」も、それを一方的に教え込むだけでは、社員の心からの共感と主体的な行動には繋がりにくいからです。
真の変革のためには、社員一人ひとりが、その「考え方」を「自分ごと」として捉え、自らの頭で考え、判断し、行動できるようになるための 「土壌」 が必要不可欠です。
それが、 「考えて行動する場づくり」 です。
すなわち、 社員が役職や経験に関わらず、自由に意見を交換し、互いのアイデアに刺激を受け、時には建設的な批判もし合いながら、新しい挑戦や改善策を生み出すことができる、心理的に安全な環境 を意図的に醸成すること。これが決定的に重要なのです。
「トップダウンで指示されたから、仕方なくやる」のではなく、「私たちの組織をより良くするために、あの『考え方』に基づいて、こんな新しい取り組みを試してみたい!」と、社員が 自発的に考え、ワクワクしながら挑戦できる雰囲気 。
上司が部下の突飛なアイデアにも真摯に耳を傾け、「いいね、まずやってみよう!」と背中を押し、たとえ失敗しても、それを責めるのではなく、「そこから何を学んだか?」を共に考え、次への糧とすることを奨励する文化。
こうした「場」があって初めて、「考え方」は単なる標語ではなく、組織の血肉となり、生きた知恵となり、社員一人ひとりの内に秘められた才能を開花させ、組織全体を活性化させる強力なエネルギーへと昇華するのです。
【乾流③】仕事の次元を変える:「こなす仕事」から「仕掛ける仕事」へ、意識の舵を切る
組織に確かな「考え方」が根付き、心理的安全性の高い「場」が整うと、社員の日々の仕事への取り組み方そのものに、劇的な変化が起こり始めます。
それは、単に目の前にあるタスクを受け身で処理する 「こなす仕事」 の次元から、 未来の成果や新たな価値を自ら創り出すために、能動的に市場や顧客に働きかけ、変化を生み出していく「仕掛ける仕事」 へと、意識の舵が大きく切られる瞬間です。
「こなす仕事」は、指示されたことを正確に、効率よく行うことが中心です。もちろん、これも重要ですが、この状態だけでは、組織は現状維持に留まり、変化の激しい時代に取り残されてしまう可能性があります。
一方、「仕掛ける仕事」は、未来志向です。「お客様自身も気づいていない、潜在的なニーズを掘り起こすためには、どんな問いかけやアプローチが考えられるだろうか?」「競合他社よりも一歩先んじて市場をリードするためには、どんな斬新な価値提案やサービスモデルを打ち出せるだろうか?」「この社会課題に対して、私たちの技術やノウハウを活かして、何か貢献できることはないだろうか?」
こうした、 現状の枠を超えた未来志向の問い を、組織の誰もが日常的に考え、部署の垣根を越えて議論し、果敢に実行していく。
この「仕掛ける仕事」への意識改革こそが、「考え方」が組織にもたらす最も価値ある果実の一つであり、企業の持続的な成長とイノベーションを牽引する、力強いエンジンとなるのです。
【乾流④】本質を見抜く武器:「コンサル思考」で視座を高め、未来を切り拓く
そして、「考え方」のレベルをさらに引き上げ、より本質的な課題解決や、長期的な視点に立った戦略的な意思決定を可能にするために、私たちが推奨するのが 「コンサル思考」 、特に 物事を複眼的に捉える「ズームイン(具体)」と「ズームアウト(抽象)」 の視点を自在に使いこなす力です。
目の前で起きている具体的な問題やタスク(ズームイン)に深く没頭し、その詳細を徹底的に分析しつつも、常に一歩引いて、その問題がビジネス全体の構造の中でどのような意味を持つのか、業界全体の力学や市場の長期的なトレンド(ズームアウト)の中で、自社の立ち位置はどうなっているのか、といった 大局観 を持って物事を捉え直す。
この 視野の広さ(虫の目と鳥の目)と視点の高さ(魚の目=流れを読む) を、組織全体で養うこと。
これができれば、目先の現象に振り回される対症療法的な対応ではなく、問題の根本原因に迫る解決策や、数年先、数十年先を見据えた革新的なアイデア、すなわち「未来を切り拓く一手」を生み出す力を、組織として獲得することができます。
これは、経営層だけでなく、現場のリーダーや担当者一人ひとりが身につけるべき、これからの時代の必須スキルと言えるでしょう。
社長、最後の問いかけです:貴社の「考え方」は、未来を照らす灯台となっていますか?
ここまで、「考え方」が組織の未来にとっていかに重要であるか、そしてそれを組織の強固な「軸」とするための具体的なステップについてお話ししてきました。
最後に、社長ご自身に、そして貴社の組織に、改めて問いかけてみてください。
●貴社が最も大切にしている「考え方」や「価値観」は、社員誰もが共感し、自分の言葉で語れるほど、具体的で分かりやすい言葉として定義され、共有されていますか?
●その「考え方」は、会議室の壁に飾られているだけでなく、社員が日々の業務の中で「なるほど!」と膝を打ち、「よし、やってみよう!」と行動に移せるような、リアルな「体験」の仕組みと連動していますか?
●社員は、失敗を恐れることなく、「もっとこうすれば良くなるのでは?」と自由に意見を述べ、新しい挑戦を歓迎されるような、心理的に安全な「場」の中で、活き活きと働いていますか?
●そして何よりも、経営幹部、さらには社長ご自身が、誰よりもその「考え方」を心の底から信じ、日々の意思決定や言動において、揺るぎない「率先垂垂範」を示せていますか?
もし、これらの問いに対して、一つでも「まだ道半ばだ」「改善の余地がある」と感じられる点があるならば。
それは決して悲観すべきことではありません。
むしろ、貴社が 「理念が真に息づき、社員一人ひとりが主体的に輝き、自ら未来を切り拓く組織」へと進化するための、次なるステージへの扉が開かれた という、希望のサインなのです。
組織の根幹である「考え方」に、今一度真剣に向き合い、それを揺るぎない「軸」として組織全体で打ち立てる。
その挑戦は、決して容易な道のりではないかもしれません。しかし、その先に広がる、社員が誇りを持ち、自律的に成長し続ける組織の姿こそが、企業の未来を明るく照らし、永続的な繁栄へと導く、最も確かな道筋となるはずです。
さあ、社長、その最初の一歩を、今日から踏み出してみませんか?
