「営業の成約達人」を生み出す仕組みの作り方

代表 乾切抜き 仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第527話 営業理念を唱和する朝と、「断られるまで帰るな」と言う夕方

「毎朝みんなで営業理念を読み上げているのに、商談では誰も口にしない」

「価値提供と言いながら、持ち帰ってくるのは値引きの相談ばかりだ」

「若手は件数だけ合わせて、お客様の話を何も聞いてこない」

「理念は全員そらで言えるのに、判断はいつも社長頼みだ」

もし一つでも思い当たるなら、問題は社員の意識ではないかも知れません。

毎朝あれだけ言葉にしているのに、夕方には別の言葉で営業を動かしている——その食い違いが、理念を判断の場面から遠ざけています。

このまま唱和の声だけを大きくしても、現場はますます理念から離れていきます。

今日は、理念の一文を書き換えずに、現場で使われる言葉へ戻していく話をします。

営業理念を毎朝唱和しているのに、なぜ商談では判断の拠り所にならないのか?

営業理念とは、自社が営業というものをどう捉え、何を大事にしてお客様のもとへ向かうのかを言語化した、営業に対する考え方のことです。

企業理念ほど大きな話ではなく、「うちの営業は何のためにお客様に会いに行くのか」を一文にしたものだと考えてください。

ある社長と私の会話です。

社長「うちは理念をきちんと文章にして、朝礼で毎日唱和しています。全員がそらで言えるんです」

私「商談で迷ったとき、営業の方はその一文で判断していますか」

社長「……いや、それは。現場では結局、件数と値段の話になりますね」

私「夕方、営業の方が戻ってきたとき、最初に何と声をかけていますか」

社長「今日は何件回った、ですかね。案件が少なければ、断られるまで帰るな、と」

この短いやり取りの中に、多くの会社が陥っている落とし穴があります。

唱和することそのものが目的になると、言えることで安心してしまうのです。

ところが営業担当者が商談の場で動く基準は、朝に読み上げた一文ではなく、夕方に社長から何を聞かれるかのほうです。

社員は掲げられた言葉ではなく、毎日問われる言葉に合わせて動きます。

唱和は手段であって、目的ではありません。

手段が目的にすり替わった瞬間、理念は「言えること」で完結してしまい、商談で判断を迫られる場面からは静かに姿を消していきます。

唱和している営業理念が現場で使われないとき、営業の現場では何が起きているのか?

営業理念が現場で使われない会社では、朝と夕方で逆を向いた言葉が、毎日少しずつ次の4つの連鎖を進めています。

①朝の言葉と夕方の言葉が食い違う

朝礼では「お客様の悩みや願望に沿う価値提供」と声を揃えます。

夕方の帰社報告では「何件回った」「断られるまで帰るな」が飛び交います。

同じ社長の口から、同じ日のうちに、向きの違う2つの言葉が出ているということです。

社員から見れば、どちらが本音なのかが分からない状態です。

②営業担当者は夕方の言葉を選ぶ

若手の営業担当者は、どちらに従えば叱られないかをすぐに見抜きます。

お客様の悩みを聞くには時間がかかり、その分だけ件数は減ります。

よって、会ってくれやすい先を回り、カタログを置いては次へ急ぐ動き方に落ち着いていきます。

評価されるのは理念の体現ではなく、回った軒数の多さだと学んでしまうからです。

③商談の中身が値段の話に寄っていく

お客様の困りごとを聞いていないので、差し出せる材料は値段だけです。

「もう少し安くなりませんか」と言われれば、そのまま会社に持ち帰ります。

価値提供を掲げた会社の営業が、気づけば値引きの伝令役になっている——これが現場で起きていることです。

良い顧客はベテランが抱えたまま件数を合わせ、若手は成果の出にくい先ばかりを回って、やがて辞めていきます。

④社長が「意識が低い」と結論づける

数字が伸びない理由を、社長は社員の意識に求めます。

理念をもっと徹底させようと、唱和の声を大きくし、額を増やし、研修を足していきます。

けれども、夕方の言葉が変わらない限り、現場の動きは一歩も変わりません。

理念を強く唱えるほど、言っていることとやらせていることの差が社員に見えてしまいます。

【実録事例】社長の夕方の一言を変えたとき、営業理念は商談でどう使われ始めたのか?

業務用食品の製造・販売業を営む会社で、二代目の社長が当社に相談に来られたときの話です。

停滞期——根性で締める帰社報告

この会社の営業理念は「お客様の悩みや願望に沿う価値提供を磨き続ける」でした。

先代の頃から受け継いだ一文で、社長は毎朝、朝礼の先頭に立って唱和を続けていました。

取引先は飲食店や給食事業者、惣菜を扱う小売店などです。

ところが夕方になると、社長の第一声は決まって「今日は何件回った」でした。

件数が足りない担当者には「訪問件数を増やせ」、案件が少ない担当者には「断られるまで帰るな」と言って、その日を締めます。

社長「若手に理念がまったく伝わっていないんです。商談で話しているのは値段のことばかりで」

営業日報を見せていただくと、訪問先と件数が並ぶだけで、お客様が何に困っているのかは一行も書かれていませんでした。

理念を毎朝唱える会社で、理念の言葉を一度も使わない営業が育っていたのです。

転換期——理念で始まる帰社報告

きっかけは、当社が社長にお願いした一つの作業でした。

私「この1週間、夕方に営業の方へかけた言葉を書き出してみてください」

翌週、社長はメモを持ってきて、しばらく黙っていました。

並んでいたのは「何件」「もっと回れ」「断られるまで帰るな」——件数と根性の言葉だけでした。

社長「朝の一文と、向きがまったく逆ですね」

理念が伝わっていなかったのではありません。

社長自身が毎日、理念と逆を向いた言葉で営業を動かしていたのです。

そこで当社と社長は、理念の一文には手を付けず、夕方の言葉のほうを3つの手順で作り直しました。

ステップ1——件数と根性の言葉を夕方に使わない

まず、「何件」「断られるまで帰るな」を帰社報告では口にしないと決めました。

件数は月末の表でまとめて見れば足ります。

毎日確かめるべきなのは、数ではなく、お客様のもとで何が起きたかだからです。

ステップ2——理念の一文から夕方の第一声を作り直す

次に、「悩みや願望に沿う価値提供」という一文から、夕方の第一声を作りました。

「今日、お客様が困っていたことは何でしたか」

最初の数日、若手は答えに詰まりました。

聞いていないのですから、答えようがありません。

それでも社長は、毎日同じ言葉で聞き続けました。

2週目に入ると、「厨房の人手が足りず、カット済みの野菜を増やしたいと言っていた」といった話が、報告の中に混ざり始めます。

その場で社長が、自社のどの商品ならその悩みに応えられるかを、担当者と一緒に考えるようになりました。

ステップ3——送り出す言葉を作り直す

最後に、一日の締めの一言を変えました。

「断られるまで帰るな」は、実は翌日の訪問の指示でもあります。

社長はこれを「お客様の悩みを1つ持ち帰るまで帰るな」に言い換えました。

口癖の強さはそのままに、向きだけを理念に揃えたということです。

3か月が過ぎる頃には、値引きの相談で終わっていた商談の中に、悩みを起点にした提案(下処理の手間を減らす規格の切り替えなど)が少しずつ増えていきました。

ある日の夕方、社長は私にこう話されました。

社長「朝に読み上げている言葉を、夕方いちばん使っていなかったのは、私でした」

毎朝読み上げているのに商談では誰も口にしない——その状態は、夕方の言葉を一つ替えるところから動き始めます。

ただ、その先で訪問の指示や行動管理まで理念と連動させるには、仕組みとしての組み立てが要ります。

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営業理念を判断の軸にするには、言葉より先に何を揃えなければならないのか?

営業理念を判断の軸にするために先に揃えるべきものは、言葉の磨き込みではなく、その言葉を毎日体験させる仕組みです。

ある扉を思い浮かべてみてください。

扉には「押」と書いた札が貼ってあります。

ところが蝶番は手前に開く造りで、取っ手も握って引く形をしています。

人は札の文字を読んでいても、手は取っ手の形に従って扉を引きます。

札を大きく書き直しても、色を変えても、結果は同じです。

営業理念はこの札にあたり、蝶番と取っ手にあたるのが、訪問の指示や夕方にかける言葉です。

造りが逆を向いている限り、札をいくら貼り直しても人は逆に動きます。

当社では、在り方の信念のレベルまで届いていなくても、考え方を意識して体験できる仕組みが機能していれば、考え方は軸になると考えています。

逆に言えば、どれほど立派な一文でも、実践する場と連動していなければ、それは机上の空論のままです。

そう、理念が軸になるかどうかを決めるのは、言葉の出来栄えではありません。

毎日の指示と問いかけが、その言葉と同じ向きを向いているかどうかです。

考え方が軸になった集団は、やがて組織の風土をつくり、社員を一つに束ねていきます。

明日の訪問の指示を営業理念に合わせるには、何から変えればよいのか?

明日の訪問の指示を営業理念に合わせる最初の一歩は、夕方の締めの一言を替えることです。

「断られるまで帰るな」を、「お客様の悩みを1つ持ち帰るまで帰るな」に言い換えてみてください。

この一言は、ただの励ましではありません。

翌日の訪問の指示そのものです。

当社では、訪問は件数で指示するものではなく、何のために行くのかという訪問目的で指示するものだと考えています。

お客様の悩みや願望を聞いて持ち帰ることは、その訪問目的の一つとして、はっきり位置づけられるものです。

締めの一言を替えるだけで、営業担当者が翌朝に会社を出るとき頭にあるものが、回る軒数からお客様の悩みへと切り替わります。

言葉の強さはそのままに、向きだけを理念に揃えるのが要点です。

実際にやってみると、すぐにいくつかのことに気づくはずです。

悩みを持ち帰ってきても、それを価値提供につなげる受け皿が、まだ社内にないこと。

月末の件数表も、朝の訪問予定の立て方も、件数の向きのまま残っていること。

締めの一言を替えた夕方から、次に揃えるべき仕組みが見え始めます。

まとめ

営業理念は、唱和の回数で現場に根づくものではありません。

朝の一文と夕方の一言が同じ向きを向いたとき、初めて商談の判断に使われ始めます。

あなたの会社では、理念の一文が夕方の言葉にまで届いていますか。

それとも、朝の唱和だけで終わっていないでしょうか。

締めの一言を替えることは、明日の夕方からでもできます。

その一言が持ち帰らせた悩みを受け止め、訪問の指示や行動管理まで理念と連動させていくところに、次の一段があります。

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