「営業の成約達人」を生み出す仕組みの作り方

代表 乾切抜き 仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第515話 営業の行動量は増えた。増えなかったのは商談の中身でした

「訪問件数は、去年より二割増えました」

「それなのに、受注の顔ぶれは去年と同じなんです」

「営業が今週どこで何を話してきたのか、私は一つも知りません」

この三つが同じ会社で同時に起きているとき、原因は営業スタッフの努力不足ではありません。

会社の中に、商談の中身が残る場所が一つも無いというだけです。

行動の量は、放っておいても経営者の手元まで上がってきます。

日報を集計すれば件数は勝手に出てくるからです。

でも商談の中身は、誰かが意識して書き留めない限り、その日の夕方には担当者本人の中からも薄れていきます。

この非対称に手を打たないまま行動量だけを増やすと、会社は確実にある方向へ進みます。

今回は、その進み方を順番に見ていきます。

経営者が陥る「数えられるものだけを見る」という罠

ある経営者との面談で、こんなやり取りがありました。

「行動量は間違いなく増えているんです。日報の集計も、ここ半年は右肩上がりで」

「その集計表には、何が載っていますか」

「訪問件数と、移動距離くらいですね」

「では、先週いちばん先へ進んだ商談を、一件だけ挙げていただけますか」

「……それは、担当者に聞かないと分かりません」

ここが分かれ目です。

訪問は、本来なら成約に近づくための手段でした。

ところが件数という形で毎月集計され、会議で読み上げられ、前年と比較されるようになった時点で、訪問件数そのものが目的の位置へ静かに移動していきます

そう、手段の目的化というのは、誰かが決断して起こすものではありません。

数えられるものだけが記録に残り、記録に残ったものだけが会議で扱われ、会議で扱われたものだけが評価につながる——この流れを止めずに三年も回せば、組織は自動的にそこへ行き着きます。

悪意も怠慢も要らないのです。

中身が痩せていく「四つの連鎖」

当社が同種の相談を受けるとき、ほぼ例外なく次の順番で進行しています。

① 経営者が件数を尋ね、件数だけが返ってくる

「今月どれくらい回った」という問いに、担当者は正確な数字で答えます。

答えられなければ叱られるからです。

問いの形が、返ってくる情報の形を決めます。

② 件数を作れる訪問が、静かに選ばれ始める

新しい現場の担当者に会いに行けば、話が通じるまでに一時間かかります。

顔なじみの得意先に顔を出すだけなら十分です。

同じ一日で八件と三件に分かれるとき、評価されるのは八件のほうです

③ 一件あたりの中身が痩せても、集計表の見た目は変わらない

ここが最も厄介なところです。

挨拶だけの一件も、次の工事の仕様を聞き出した一件も、集計表の上ではまったく同じ「1」として並びます。

中身が半分になったことは、どの数字にも現れません。

④ 数字が伸びているので、誰も止められない

前年比で件数が伸びている以上、営業部門は「やっている」と評価されます。

受注が動かない理由は市況や競合の値下げに求められ、来期はさらに件数の目標が上乗せされます。

こうして輪は閉じ、外から見ると好調に見える会社の内側で、商談だけが痩せ続けていきます。

【実録事例】訪問件数が過去最高でも、受注が動かなかった卸売会社

電気設備資材の卸売業を営むT社長からのご相談でした。

数だけが上がる日々

月次の訪問件数は、前年の460件から480件へ伸びていました。

T社長は毎月の集計表を見ながら「うちの営業はよく回っている」と受け取っていたそうです。

ところが、受注の報告に出てくる得意先の顔ぶれが、二年前とほとんど変わっていませんでした。

営業会議に同席させていただくと、開始から二十分は件数と前年比の読み上げに使われ、誰がどの現場でどんな話をしてきたのかという言葉は一言も出ませんでした。

ベテランは付き合いの長い得意先を一日八件回り、若手は一件の打ち合わせに時間をかけて三件しか回れず、その差だけが会議で指摘されていました。

ある担当者に個別で聞くと、主要な得意先で仕入責任者が半年前に交代していたことが分かりました。

前任者との関係で成り立っていた取引だったにもかかわらず、その事実は日報のどこにも書かれておらず、会社としては誰も知らないまま、訪問件数だけが積み上がっていたのです

中身が上がり始めた日

T社長は当初、「うちの営業は報告を書かない」と考えておられました。

でも、当社が日報の様式を確認したところ、そもそも中身を書く欄が存在していませんでした。

ここで一つ、逆説が見えてきます。

経営者が件数ばかり見ていたのは、中身に関心がなかったからではありません。

中身を受け取る器が社内に一つも無かったため、件数しか見ようがなかったのです。

よって、件数の管理をやめる必要はありませんでした。

当社がお手伝いしたのは、次の三つだけです。

ステップ1:件数欄の横に、一行の置き場所を作る

日報の様式を変え、訪問件数の隣に「その訪問で何が決まったか」を一行だけ書く欄を追加しました。

感想でも所感でもなく、決まった事実を一行という制約を付けています(欄を大きくすると書かなくなるため、意図的に一行に限定しました)。

ステップ2:会議で、今週いちばん先へ進んだ一件を本人に語らせる

件数の読み上げはそのまま残しました。

その後に、各担当者が「今週いちばん先へ進んだ一件」を一つだけ選び、自分の言葉で説明する時間を五分ずつ設けています。

選ぶのは担当者本人です。

ステップ3:出てきた言葉を、翌週の訪問計画に紐づける

会議で出た言葉のうち、他の担当者にも使えるものを「次の訪問で試す一手」として翌週の計画に書き込みました。

ここまでやって初めて、中身が次の行動量へ戻っていきます

三ヶ月後、訪問件数は450件へ微減しました。

一方で、二年間動いていなかった得意先から二件の新規案件が立ち上がっています。

T社長の言葉が印象に残っています。

「件数は毎月見ていました。でも、商談そのものを見たことは、一度もなかったんです」

商談の中身がどこにも残っていないという状態は、営業スタッフの意識ではなく、会社の仕組みが作り出しています。

その仕組みをどう組み替えるかは、無料レポート「成約達人を生み出す組織をつくる」で、顧客情報の管理と行動の管理をどう連動させるかという形で詳しくお伝えしています。

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逆説的な真実——量は勝手に残り、中身は放っておくと消える

スマートフォンの通話履歴を思い浮かべてください。

誰といつ何分話したかは、こちらが何もしなくても自動で残ります。

でも、その通話で何を話したかは一行も残りません

三ヶ月前の五分間の通話について、相手と時刻は正確に分かるのに、内容だけが完全に失われている——営業の記録で起きているのは、これとまったく同じことです。

行動量は、記録しようと決めなくても勝手に積み上がります。

中身は、意識して書き留めない限り必ず消えます。

この差を埋める作業をしないまま「行動量を増やせ」と号令をかければ、会社に残る情報は件数だけになります。

ここで、ノルマと目標達成の違いがはっきりします。

件数だけが渡されたとき、担当者にとってそれはノルマです。

達成できるかどうか分からないまま、とにかく回らなければいけない数字だからです。

中身を積み上げる形が一緒に渡されたとき、初めて目標達成になります。

どの得意先で何を進めれば数字に届くかというストーリーが、自分の中に見えるからです。

KPIという言葉を使うなら、訪問件数はKPIの入口であって、それ単体では方向を持ちません。

参考までに、当社がKPIの設計をお手伝いするときは、必ず件数の指標と中身の指標を対にします。

片方だけを追いかける管理は、中途半端なまま数年が過ぎていくからです。

処方箋——明日、一人だけ呼んで、一行を書き取る

今日からできることを一つだけお伝えします。

明日、営業担当者を一人だけ呼んでください。

そして、昨日回った訪問先の中から一件を本人に選ばせ、「その一件で何が決まったか」を口に出してもらいます。

このとき、経営者ご自身が手元の紙に一行で書き取ってください。

パソコンではなく紙で、経営者の手で書くことに意味があります。

所要時間は五分もかかりません。

言うまでもありませんが、ここで出てくる一行は、日報を百枚読んでも出てこない情報です。

「先方の担当者が来月から変わる」「見積の期限が今週末だった」——そういう言葉が、五分で手元に残ります。

さて、これを三日続けてみてください。

おそらく四日目に、こう感じられるはずです。

やり方は分かったが、これを全員分、毎週続ける形が社内に無い。

そこに気づいた時点で、もう次に必要なものは見えています。

数だけが上がってくる会社と、中身が上がってくる会社

行動量を増やすこと自体は、間違いではありません。

問題は、増やした行動が何を残しているかを、会社として誰も見ていないことです。

一件だけ書き取ってみると、その一行に反応した担当者が翌日から少しずつ話し方を変え始めます。

中身が上に届く経路ができた瞬間、営業スタッフは自分の訪問先を自分で選び直すようになります。

そこから先は、件数を増やせという号令が要らなくなっていきます。

あなたの会社では、訪問件数と一緒に、その訪問で何が決まったかが経営者の手元まで上がってきていますか。

それとも、集計表の数字が前年を上回っていることだけで安心して、商談の中身は担当者の頭の中に置いたままになっていないでしょうか。

商談の中身がどこにも残っていないまま行動量だけを追いかけている状態を、どういう順番で組み替えていけばよいのか。

その道筋は、無料レポート「成約達人を生み出す組織をつくる」の中で、営業の仕組みを構成する三つの要素として整理しています。

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