仕組みで売れる体制づくり「営業の成約達人」の仕組みの作り方-第518話 社長が出ると決まる商談ほど、若手には答えから教えてください
「社長が出ると決まるのに、若手だけの商談は見積もりで止まる」
「任せたいのに、いつまでも最後の商談に呼ばれる」
「『どう思う?』と聞いても、若手は黙ってしまう」
ひとつでも心当たりがあるなら、若手の力不足を疑う前に、経営者の側の「順番」を疑ってください。
商談を任せられない会社ほど、答えを教える前に若手へ質問を投げ、経営者が最後の商談に出続けています。
聞くことそのものは悪くありません。
問題は、聞く前に何を渡すかです。
なぜ、社長の商談は決まるのに若手には任せられないのか
社長の商談とは、社長自身が同席し、価格や条件をその場で判断しながら決めていく商談のことです。
中小企業では経営者が最も売れる営業であることが多く、同席した商談ほど話がまとまります。
任せたいと考える経営者は多いのですが、ここで一つの罠にはまります。
ある経営者とのやり取りです。
社長「若手には、商談のあとで必ず『どう思う?』と聞くようにしています。」
コンサルタント「良い習慣ですね、若手の方からはどんな答えが返ってきますか。」
社長「『価格が合ったからだと思います』くらいで、なかなか深まらないんです。」
コンサルタント「では、社長ご自身は、あの商談が何で決まったとお考えですか。」
社長「……現場の雰囲気で、いけると思ったんですよね。」
コンサルタント「その『いける』の中身を、若手の方に伝えたことはありますか。」
社長「いえ、自分で考えさせたほうが育つと思って、あえて言っていません。」
聞くことは、若手に考えさせるための手段だったはずです。
ところが、いつの間にか質問を投げること自体が目的になり、肝心の答えを誰も言葉にしていない状態が生まれています。
手段の目的化という落とし穴です。
聞くことが手段から目的に変わった瞬間、社長の商談は誰にも引き継がれなくなります。
若手に「どう思う?」と聞いても動かないのは、なぜなのか
若手に「どう思う?」と聞いても動かない会社では、質問のたびに、四つのすれ違いが連鎖していきます。
① 聞く側が仮説の答えを持っていない
商談帰りの車の中で、経営者は助手席の若手に「今日の商談、どう思った?」と聞きます。
経営者は、手応えは持っています。
ところが、何が決め手だったのかを言葉にした仮説の答えはありません。
仮説の答えがない質問は、返ってきた答えを受け止める基準も持っていないということです。
② 若手が正解探しを始める
経験の浅い若手は、商談のどこを見ればよいのかをまだ知りません。
そこで若手は、商談の中身ではなく、経営者の表情から「正解」を探し始めます。
「価格が合ったからだと思います」という無難な答えは、考えた結果ではなく、叱られない答えを選んだ結果です。
③ 営業会議の議論が噛み合わない
営業会議でも同じことが起きます。
経営者が「あの案件はどう考える?」と聞き、若手が答えると「そういうことじゃないんだよな」と返しますが、どういうことなのかは語りません。
経営者の答えと若手の答えを並べて見比べる、すり合わせの材料がないため、会議は質問と沈黙の往復で終わっていきます。
④ 若手が見抜き、経営者が商談に戻る
何度か繰り返すうちに、若手は「社長は質問はするけれど、答えは持っていない」と気づきます。
見抜かれた質問は、もう効きません。
結局、大事な商談の最後には経営者が呼ばれ、若手は横で見ています。
質問が空回りするほど、社長が出ると決まる商談は社長の手元に戻っていきます。
【実録事例】若手に聞き続けた社長は、何を答えられなかったのか
荷主企業向けの物流・倉庫サービス業を営むある会社の社長は、社内で最も商談を決められる営業でもありました。
宙に浮いた「どう思う?」
荷主の物流責任者との商談には、保管料、出荷の締め時間、繁忙期の人の手配といった条件が並びます。
社長が同席すると、先方の話を聞きながら「締め時間を30分後ろにずらせば、先方の出荷便に間に合う」とその場で判断し、提案をまとめて帰ってきます。
若手だけで訪問すると、同じ相談を受けても「持ち帰って検討します」となり、見積もりを出したところで話が止まっていました。
社長は「任せて考えさせよう」と決め、同行の帰り道でも営業会議でも、若手に「どう思う?」と聞き続けました。
返ってくるのは「料金が合ったからだと思います」という答えばかりで、社長は首を振るものの、それ以上は語りませんでした。
当社が支援に入ったのは、この状態が1年ほど続いた頃です。
当社が同席した営業会議で、社長がいつものように「先週の倉庫見学、何で決まったと思う?」と聞いたとき、一人の若手が聞き返しました。
若手「社長は、あの商談、何で決まったと思っているんですか。」
社長は言葉に詰まりました。
「現場を見てもらって、いけると思ったから」と答えるのが精一杯でした。
会議のあと、当社が「いける、の中身を三つに分けて言えますか」と尋ねても、社長の答えは同じところを回るだけでした。
若手に聞き続けていた社長自身が、なぜ決まったのかを言葉にできていなかったのです。
答えを置いてから聞く同行
社長が気づいたのは、聞く前に自分の側に答えが要るということでした。
さらに、経験の浅い若手には、考えさせる前に答えを教えるほうが先だということです。
当社はこの会社で、同行の順番を三つのステップで組み替えました。
ステップ1:決めた商談の「決め手」を書き出す
社長が決めた商談を1件選び、どこで何を根拠に判断したのかを、仮説の答えとして書き出してもらいました。
書いてみると、決め手は料金ではなく、「繁忙期に出荷が遅れて、取引先に謝り続けていた」という先方担当者の一言を拾ったことだと分かりました。
ステップ2:若手には、判断の順番ごと先に教える
次に、その答えを若手へ先に教えました(ティーチングです)。
「先方が困っている場面を聞き出す、その場面が起きる時間帯を確かめる、締め時間と人の手配で解決できるかを判断する」という順番ごと渡したのです。
ステップ3:若手の答えを先に書かせ、すり合わせる
そのうえで、次の商談の前に若手に自分の答えを書かせ、社長の答えと並べて見比べました。
違っていれば、どちらが正しいかを決めるのではなく、どうするかを一緒に検討します。
社長の手元に答えがあるので、ここで初めて「どう思う?」という質問がコーチングとして機能し始めました。
半年ほどたつと、若手だけの商談から、条件の提案まで進む案件が出てきました。
社長は当社にこう話しています。
社長「考えさせているつもりでしたが、考える材料を渡していなかったのは、私のほうでした。」
「社長が出ると決まるのに、若手には任せられない」という状態から抜け出すために、何をどの順番で若手に渡していくのかは、無料レポートで具体的に解説しています。
若手に聞く前に渡すべき答えの形を、一度確かめてみてください。
若手に考えさせたいのに、なぜ先に答えを教えなければならないのか
若手に考えさせたい経営者ほど、先に答えを教える順番を遠回りだと感じるものです。
将棋を覚えたばかりの人に盤面を見せて「次の一手はどう指す?」と聞いても、考えようがありません。
定跡を知らなければ、手の良し悪しを見分ける手がかりがないからです。
定跡を教わり、その通りに指してみて初めて、「なぜこの局面ではこの手なのか」を自分で考えられるようになります。
考える力は、答えを知らないところからではなく、答えを知ったところから育ちます。
定跡は覚えて終わりにするためのものではなく、定跡から外れた局面で考えるための土台です。
もう一度、聞く側に目を向けてみます。
自分の読み筋を持たずに「どう指す?」と聞く人は、相手の手と見比べることができません。
当社では、営業の育成を「教育」「訓練」「仕掛ける」の3段階で考えています。
教育は、上司や先輩から基本を教えてもらい、理解する段階です(現場での指導や研修です)。
訓練は、仕組みを実践し、体験や経験によって仕事のやり方を学ぶ段階です。
仕掛けるは、自ら創意工夫をして、仕事の改善や改革を行う段階です。
研修を受けさせても成果につながらない会社の多くは、教育だけで止まっています。
反対に、教育を飛ばして「どう思う?」から入れば、若手は訓練にも、仕掛ける段階にも進めません。
コーチングが効くのは、ある程度の経験と素養を持った相手です。
経験の浅い若手には、答えを教えるティーチングが先です。
聞く前に教え、教えたうえで聞くという順番を守ったとき、質問は初めて若手を考えさせる道具になります。
明日の商談の前に、社長が若手へ最初に渡すべきものは何か
経営者が明日の商談の前に若手へ最初に渡すべきものは、質問ではなく、自分が決めた商談の「決め手」を書いた3行です。
以前、当社が家電販売の営業に同行したとき、売れる人と売れない人の差は営業トークではなく、目的のゴール設定にありました。
6月のエアコン点検で、夏の繁忙期に修理で呼ばれないよう先に不具合を潰しておく目的で回る人と、点検をこなす目的で回る人とでは、結果が違っていたのです。
経営者の決め手も、話し方ではなく、商談のゴールをどこに置いたかにあります。
明日、自分が決めた直近の商談を1件だけ選び、「なぜ決まったか」を自分の答えとして3行で書いてください。
1行目には、その商談で何をゴールに置いていたかを書きます。
2行目には、先方のどの一言や場面で、決まると判断したかを書きます。
3行目には、その場で自分が決めた条件や提案を書きます。
書き上げたら一番若い営業を呼び、その3行をそのまま教えてください。
最初に説明するあいだは、若手に質問を投げないことをお勧めします。
教え終わったら、最後に一つだけ「次の商談なら、どこを同じにする?」と聞きます。
若手の答えが3行とずれていても、正しいか間違いかで裁かず、二つを並べて見比べてください。
これが、最初のすり合わせです。
やってみると、1件目は伝えられても、2件目、3件目の答えを書き溜めて若手と並べ続ける場がないことに気づくはずです。
答えを教えたあと、若手に聞く問いはどう変わるのか
若手に答えを教えたあとの問いは、「どう思う?」から「私の答えと、どこが違う?」へと変わります。
聞くこと自体は、若手を育てるうえで欠かせません。
変えるべきは、答えを持ったうえで聞く、答えを教えてから聞く、という順番です。
3行の決め手が溜まると、若手ごとに、どこでずれるのかが見えてきます。
ずれが見えれば、任せられる商談と、まだ経営者の同席が要る商談を、感覚ではなく言葉で分けられます。
教育から訓練へ、そして若手が自分で仕掛ける段階へ進む道は、ここから始まります。
ただ、決め手の書き溜めも若手とのすり合わせも、営業会議や同行の中に続ける場がなければ、中途半端なまま数週間で途切れてしまいます。
あなたの会社では、「どう思う?」と聞く前に、経営者自身の答えは言葉になっているでしょうか。
それとも、答えを渡さないまま、社長が出ると決まる商談を今日も抱え続けているでしょうか。
「任せられない」商談を若手へ渡していくための、答えを教える順番と、すり合わせを続ける場の作り方は、無料レポートで順を追って解説しています。
3行の決め手を、若手が自分で書けるところまで続けていく形は、レポートの中にあります。
